✅ 要点リスト
- 権力を求める人ほど「共感力の欠如」「自己中心的」な傾向が強い。
- 人々は「自信がありそうな人」をリーダーと錯覚しやすい。
- サイコパスは他者の感情を読む能力に長け、操作的にふるまう。
- 権力は人を変え、共感力・モラル・自制心を失わせる。
- 悪人を排除する制度設計が重要(個人ではなく仕組みで対抗)。
- 誠実で共感的なリーダーは自ら権力を求めないため支援が必要。
- 説明責任・監視・透明性が権力の腐敗を防ぐカギとなる。
- 模範的なリーダー像を共有し、選びやすい社会構造の整備が必要。
🔹レビュー
なぜ、上に立つのは“善人”ではなく“悪人”なのか?
本書『なぜ悪人が上に立つのか――人間社会の不都合な権力構造』は、政治・経済・組織のあらゆる場面で私たちが目にする「リーダーの不適格さ」に正面から挑む一冊です。著者は国際政治学者のブライアン・クラース。オックスフォード大学で博士号を取得し、国際政治と権力構造に関する豊富な研究・調査をもとに、なぜ権力の座に「共感力に乏しい人物」「自己中心的な人間」「サイコパス的傾向を持つ人物」が就いてしまうのかを、科学的に紐解いています。
本書の構成は明快で、序章と12章にわたり「権力とは何か」「誰が権力を求め、なぜ獲得できるのか」「その結果としてどんな腐敗が起きるのか」、そして「どのようにすれば健全なリーダーシップを育めるか」を段階的に解説しています。特に、進化心理学・社会制度論・組織論といった複数の視点を取り入れている点が本書のユニークなところです。
また、実例として政治家、CEO、歴史上の独裁者、現代のテックリーダーまで幅広く引用されており、抽象的な理論だけでなく現実とのリンクが強い点も特徴です。背が高く、自信過剰で、声が大きい――そんな特徴をもつ人物が“有能”と誤認され、組織のトップに立ってしまう構造は、まさに私たちが日常で違和感として抱いている疑問そのもの。本書はその違和感を「科学」と「制度設計」の観点から丁寧に言語化し、私たちの思考を深めてくれます。
🔹感想
読後感は、一言でいえば「ぞっとするほど納得」。
本書を読み進めるほど、私たちが抱えている組織や社会の不条理が、偶然ではなく“構造的必然”であることが明らかになっていきます。
とりわけ印象に残ったのは、「共感力に欠けた人物こそが、最も権力に惹かれ、そして手に入れやすい」という逆説です。リーダーに必要とされるはずの「誠実さ」や「倫理観」ではなく、「操作性」や「演技力」に長けた人物が、周囲の評価を操作して出世していく。この構図は、企業経営、政治、教育機関など、あらゆる組織に当てはまります。
また、クラース氏が示す「人は見られていると感じることで、行動を律する」という視点も非常に重要です。これまでの監視社会論では、市民が権力者に監視される危険が語られてきましたが、本書では逆に「権力者こそ監視されるべき」という視点が提示されます。この発想の転換は、企業統治や政治倫理を考える上で極めて実践的です。
翻訳も明快で、専門的なトピックでありながら読みやすさが確保されています。心理学や政治学の前提知識がなくても理解できるよう、具体的な例と繰り返しを用いた構成になっているため、誰でもスムーズに読み進められるでしょう。
一方で、改善策の具体性にやや物足りなさを感じる読者もいるかもしれません。「理想的なリーダーをどう選ぶか」に対する実践レベルの提案は、抽象的にとどまっている部分もあります。しかし、それはむしろ本書のメッセージが「読者自身が考えるきっかけとなること」に重きを置いているからとも言えます。
総じて、本書は「なぜ今の社会はこうなのか」という問いを持つすべての人にとって、強烈なヒントを与えてくれる一冊です。読み終えた後には、組織を見る目、リーダーを見る目、自分自身の中の「権力への欲望」に対する目線まで変わっているかもしれません。
🔹こんな方におすすめ
- 上司や政治家に違和感を感じているビジネスパーソン
- 組織論・権力構造に興味がある大学生・研究者
- 公共機関・企業のマネジメントに関わる方
- 「人を見る目を養いたい」と思っているすべての人
🔹評価
| 視点 | 評価 |
|---|---|
| 読みやすさ | ★★★★☆ |
| 専門性・論理性 | ★★★★★ |
| 実用性・応用可能性 | ★★★★☆ |
| 説得力・納得感 | ★★★★★ |
| 再読価値 | ★★★★☆ |
📊 総合評価: ★★★★☆(4.5/5)


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