レビュー
『さばの缶づめ、宇宙へいく』は、福井県小浜市の地方高校・小浜水産高校(のちに若狭高校へ統合)の教師と生徒たちが、地元名産の“よっぱらいサバ”を宇宙食にするという前代未聞の挑戦に挑んだ実話を描くノンフィクションである。著者は、プロジェクトの中心人物である小坂康之氏と、宇宙ライターの林公代氏。二人の視点が交錯しながら、教育現場の熱気と現実の壁、そして夢を追う力が生き生きと描かれている。
物語の発端は、生徒の何気ない一言だった。「宇宙食、作れるんちゃう?」。その瞬間、小坂教諭の教育者としての直感が動いた。「夢を語ることが、子どもの力を引き出す」。そこから始まったプロジェクトは、衛生管理(HACCP)やJAXAの厳格な基準、素材やパッケージの安全性など、数えきれないほどの技術的課題を伴っていた。しかも学校は廃校の危機にあり、資金も知識もない。だが、小坂と生徒たちは「できない理由ではなく、できる方法を考える」姿勢を貫く。
プロジェクトを通じて、生徒たちは研究・開発・交渉・プレゼンなどを実践的に学び、「勉強」の枠を超えて成長していく。その姿は、まさに“生きる学び”の象徴だ。やがて試作品が完成し、JAXAの審査で「5点満点の6点」という最高評価を得る。全国ニュースで話題となり、ついに宇宙飛行士・野口聡一の手によって、若狭のサバ缶が宇宙へと旅立つ。この奇跡の瞬間は、12年にわたる努力の集大成であり、教育の力を証明する瞬間でもあった。
要点リスト
- 舞台は廃校危機にある福井県・小浜水産高校。
- 教師・小坂康之が生徒たちと「地域から宇宙へ」の挑戦を開始。
- 生徒の発想から「サバ缶を宇宙食に」というプロジェクトが誕生。
- JAXAの厳格な基準や費用の壁に直面。
- 衛生管理(HACCP)や包装素材など科学的課題を克服。
- 学校統廃合の危機を乗り越え、「志の継承」で継続。
- 地域・企業・行政・生徒が一体となり成果を出す。
- 宇宙食審査で高評価、「5点満点の6点」獲得。
- 「よっぱらいサバ」が宇宙へ、全国的な話題に。
- 教育の本質=「夢を語り、現実を変える力」であることを提示。
感想
本書を読み終えた後、最も心に残るのは「教育の本質とは何か」という問いだ。小坂氏は、単に“宇宙食を作る”ことを目的としたのではない。彼が目指したのは、子どもたちに「夢を持ち、挑戦する力」を体得させる教育だった。彼の指導には、テストの点数や偏差値では測れない“生きる知恵”がある。地方の学校、限られた資源、少ない予算――それらの制約がむしろ生徒たちの創意を引き出していく過程が胸を打つ。
特に印象的なのは、失敗を恐れず、仲間と支え合いながら試行錯誤を続ける生徒たちの姿である。プロジェクトが行き詰まるたびに、彼らは「どうすればできるか」を話し合い、解決策を探す。そこには、机上の勉強では得られないリアルな学びがある。小坂氏が語る「教育とは、現実を見せることではなく、現実を変える力を育てること」という言葉は、現代教育に対する鋭いメッセージだ。
また、地域との連携も本書の魅力の一つである。企業、行政、大学、卒業生――多くの人々が高校生の挑戦を支え、「地域が学校を育てる」構図が描かれている。廃校の危機を超えて継承されたプロジェクトは、地域の誇りとなり、若狭のブランドを全国に広めた。つまりこの物語は、「地方創生」の一つの理想形でもある。
筆致は軽快で、実話ながら読みやすく、まるで青春ドラマのような感動がある。とくに第9章「鯖街道、月へ、未来へ」は、涙なしには読めないクライマックスだ。読後に残るのは、単なる感動ではなく、「自分も何かを始めてみよう」という前向きなエネルギーである。
おすすめ・評価
本書は、以下のような読者に特におすすめです:
- 教育関係者、教師、指導者
- 地方創生や地域ビジネスに関心のある人
- 若者や学生に“夢を語る力”を伝えたい人
- 「努力」「チーム」「希望」という言葉を信じたい人
単なる感動物語ではなく、「現実を動かす教育」の記録として読むと深い。地方発の奇跡が、全国、そして宇宙へ広がっていく姿は、どんなビジネス書や自己啓発書よりも説得力を持っている。
総合評価
| 評価項目 | 内容 | 星 |
|---|---|---|
| 読みやすさ | 物語構成が明快で、ノンフィクションながらテンポが良い | ★★★★★ |
| 感動度 | 実話ゆえのリアリティと希望に満ちた結末 | ★★★★★ |
| 教育的価値 | 実践的学び・探究学習の好例として秀逸 | ★★★★★ |
| 地域連携の描写 | 地域・企業・教育の協働モデルとして高評価 | ★★★★☆ |
| 総合満足度 | 「読むと心が温かくなる」一冊 | ★★★★★ |
総評
『さばの缶づめ、宇宙へいく』は、教育・地域・夢という三つのテーマが見事に融合した“実践的ヒューマンドキュメント”である。読めばきっと、あなたも「夢を語ることの力」を思い出すはずだ。
大人にも、学生にも、そして教育に携わるすべての人に読んでほしい一冊です。


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