レビュー
本書は、「知的に話せる人は、何をどのように読んでいるのか?」という問いに真正面から挑む、現代の“読書×会話術”本である。
著者の三宅香帆氏は、若手文芸評論家として人気が高く、これまで『「好き」を言語化する技術』『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』など、思考と言語化の関係をテーマにした著作で知られている。本書では、そうした言語化の技術をさらに発展させ、「話すために読む」という新しい読書法を提案している。
構成は明快で、前半で“面白い話”の構造を分析し、後半で実例をもとに実践法を解説する。各章には、最新のドラマ・映画・漫画などが登場し、批評を通して“話題のタネ”をどう調理すれば会話が豊かになるかを具体的に示してくれる。そのため、アカデミックな批評書というよりは、知的好奇心を刺激する「エンタメ的教養書」と言える。
要点
- 「話の面白さ」はセンスではなく“読解力”で鍛えられる
- 読書・映画鑑賞を“ネタ化”するには再構成の視点が必要
- 鑑賞の五技法:比較・抽象・発見・流行・不易
- 「語る力」とは「読む力」の応用である
- 批評的思考が日常会話を豊かにする
感想
最大の魅力は、「話が面白い人=情報を持っている人」ではなく、「話が面白い人=物事を構造的に読む人」と定義している点にある。これはSNS時代の“浅い情報洪水”に対する鋭いカウンターでもある。何かを語るには、自分なりの読み解き方=“知的フィルター”を持つ必要があるという主張は、多くの読者に響くだろう。
一方で、内容の大半が文芸作品や映像作品の分析であり、コミュニケーション実践の指南というよりは「読解と批評の方法論」に近い。レビューにもあるように、「雑談力を上げたい人」よりも、「語る内容を深めたい人」に向いている。
文体は軽妙で読みやすく、例も豊富。教養書にありがちな堅さはなく、むしろ「知の楽しさ」を前面に出した筆致だ。
とくに「抽象」「発見」の章では、日常の雑談を一段深くするヒントが詰まっており、「自分の感じたことを言葉にできない」という人にとって実用性が高い。
おすすめ対象
- ビジネスパーソン:プレゼン・会議・雑談の“話の引き出し”を増やしたい人
- クリエイター/編集者:作品を語る・紹介する技術を磨きたい人
- 読書好き・批評好き:読んだ本をもっと“使える知識”にしたい人
総合評価
⭐⭐⭐⭐☆(4.2 / 5)
- 読書を「話す力」に変える新しい読書論
- 批評とコミュニケーションをつなぐ知的エンタメ
- 一方で、実践的な会話テクニックを求める人にはやや理論寄り


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