レビュー
「ムカつく」「イライラする」「ついキレてしまう」──そんな感情に悩む現代人にとって、本書『「対人関係療法」の精神科医が教える 「怒り」がスーッと消える本』は、一つの救いとなる一冊です。著者の水島広子氏は、精神科医でありながら、対人関係療法の日本における第一人者でもあり、政治家としても厚生労働・青少年問題に関わった異色のキャリアを持つ人物です。
本書は、単なるアンガーマネジメント本ではありません。怒りを「悪い感情」として抑え込むのではなく、「自分の困りごとを知らせてくれる感情」と肯定的に捉え、その根本原因に対処していくプロセスを、対人関係療法の理論と実践を通して分かりやすく解説しています。
書籍はプロローグと7章で構成され、読者は徐々に「怒り」の本質と、その扱い方を理解していきます。とりわけ印象的なのは、「怒りの正体は、役割期待のずれにある」という見方です。「○○すべき」という思いが自分の中にあるのに、それが他者と共有されていないとき、私たちは怒りを感じる。その構造を理解するだけで、怒りの感情を冷静に見つめることができるようになります。
また、コミュニケーションの具体的なテクニックとして紹介される「Iメッセージ」(私は○○と感じる)は、実際の人間関係のなかで非常に応用が効き、職場や家庭、学校などあらゆる場面で有効に機能することでしょう。
さらに、「他人を評価することをやめる」「怒りっぽい人には距離を取る」というシンプルかつ本質的なアドバイスは、読者に安心感と実践力を与えてくれます。イラストも多く、内容は専門的ながらもやさしく、誰でも読み進めやすい構成です。
要点
- 怒りは「自分の困りごと」を知らせる感情であり、否定すべきものではない
- 怒りの根底には、不安・我慢・期待の裏切りといった一次感情がある
- 「役割期待のずれ」が怒りの原因であると「対人関係療法」は解釈する
- 怒らない・怒らせないための会話術には「Iメッセージ」が有効
- 他人を「評価」することをやめると、怒りは自然と小さくなる
- 怒らない人になるには、深呼吸・間を置く・自己理解の習慣が鍵
- 相手の怒りには巻き込まれず、「その人の課題」として距離を取る視点が必要

感想
本書を読んでまず感じたのは、「怒り」という感情に対する認識が180度変わるということです。これまで「怒り=抑えるべきもの」「我慢するべきもの」と無意識に思っていた節がありましたが、水島氏はそれを否定し、「怒りとは自分が困っているというメッセージ」だと教えてくれます。この視点の転換は、非常に大きなものでした。
特に響いたのは、「役割期待のずれ」という概念です。私たちは誰かに「こうあってほしい」「こうすべきだ」という無意識の期待を抱きがちですが、それが裏切られたときに感じるのが怒りであるという指摘には、ハッとさせられました。多くの対人ストレスがここに由来していると感じます。
また、感情の表現としてIメッセージを使うという方法は、シンプルながら効果的です。相手を非難するのではなく、自分の感情にフォーカスすることで、対立を回避しながらも自己主張ができる。この技術を知っているだけでも、人間関係のトラブルは減ると思います。
本書は、怒りに悩むすべての人に対して「その感情はあなたが悪いのではない」と優しく寄り添いながらも、「では、どうすればよいか?」という道筋を明確に示してくれる誠実な本です。著者自身が精神科医として実際の臨床現場で積み重ねた知見が背景にあるため、内容には説得力と実用性があります。
個人的には、自己肯定感を高めるヒントにも溢れていると感じました。「自分を大切にすることが、怒りを鎮める第一歩である」というメッセージは、自己否定や完璧主義に陥りがちな人にとって、心に深く響くものです。
こんな方におすすめ
- 人間関係の中で怒りを感じやすい方
- 職場や家庭で感情的な対立が多いと感じている方
- アンガーマネジメントに関心のある方
- 心穏やかに生きるための習慣を身につけたい方
- 精神科医による信頼性のある方法論を求めている方
総合評価
| 評価項目 | 点数 | コメント |
|---|---|---|
| 読みやすさ | ★★★★★ | イラストも豊富で平易な表現が多く、専門知識不要で読める |
| 実用性 | ★★★★★ | 日常で実践できるヒントが豊富。特に対人関係に即効性あり |
| 内容の深さ | ★★★★☆ | 対人関係療法の基本を押さえた構成で、一般向けとしては十分 |
| 独自性 | ★★★★☆ | 役割期待のずれという視点が独特で納得感あり |
| 感情への寄り添い | ★★★★★ | 否定せずに受け止める姿勢が一貫しており安心できる |


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