「オルカン」はこうして生まれた──投資家の声が形になった誕生秘話

新NISAの普及とともに、いまや「投資といえばオルカン」と言われるほどの定番商品になったeMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)。通称「オルカン」です。

でも、この大ヒット商品がどんな経緯で生まれたのか、意外と知られていないかもしれません。実はその裏には、運用会社と投資家との地道な対話、そして「eMAXIS Slim」というブランドを育ててきた長い時間がありました。

ここでは、三菱UFJアセットマネジメントの開発・運用・宣伝に関わったメンバーの証言をもとに、オルカン誕生のストーリーを振り返ってみます。


目次

オルカンの誕生日は2018年10月31日

オルカンが設定されたのは、2018年10月31日。つみたてNISAがスタートしたのと同じ年でした。この日は今でも「オルカン生誕祭」として、毎年投資家向けのイベントが開かれているほどです。

ただ、この1日が突然やってきたわけではありません。ここにたどり着くまでには、シリーズの立ち上げから数えて約10年という年月が流れていました。

eMAXIS から eMAXIS Slim へ──ブランドの歩み

オルカンが誕生するまでの大まかな流れを、時系列で整理してみましょう。

時期できごと
2009年10月ノーロード(購入時手数料無料)のインデックスファンドシリーズ「eMAXIS」がスタート。同時期に投資家との対話イベント(ブロガーミーティング)も開始
2014年1月一般NISAが始まる
2015年シリーズのキャラクター「eクマ」が登場
2016年1月ジュニアNISAが始まる
2017年2月販売をネット中心に絞り込み、低コストを徹底追求した「eMAXIS Slim」シリーズが誕生
2018年1月つみたてNISAが始まる
2018年10月オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー))誕生
2018年12月投信ブロガーが選ぶFund of the Year 2018で、いきなり3位にランクイン

ポイントは、「eMAXIS Slim」という低コストブランドの土台があったからこそ、オルカンが自然な流れで生まれたということ。常に業界最低水準の運用コストをめざす姿勢が、シリーズ全体への信頼につながっていたのです。


きっかけは「日本も含めた1本がほしい」という投資家の声

では、なぜ「全世界株式(含む日本)」というファンドが必要とされたのでしょうか。

開発を担当した野尻広明氏(オルカン企画当時は商品開発部に所属)によれば、誕生の背景にあったのは投資家のリアルな声でした。同社はブロガーミーティングなどのイベントを通じて、投資家と顔の見えるコミュニケーションを地道に続けてきたといいます。

そのやり取りの中で繰り返し聞こえてきたのが、「日本も含めた全世界に、1本でそのまま投資できるファンドがほしい」という要望でした。

実はオルカン以前にも「全世界株式」をうたうファンドは存在していました。ただ、投資対象が「日本を除く」ものだったり、時価総額に応じた配分(時価総額加重)になっていなかったりと、投資家が本当に求める形とは少しズレていたのです。

そこで、こうした声に応えるべく企画が本格始動。決定打となったのは2018年3月のブロガーミーティングで、「日本を含む全世界株式型のファンドはいつ出るのか」という声が相次いだことでした。要望に応える形で設計が進められ、半年あまり後の同年10月に発売へとこぎつけたのです。


人気の秘訣は「マーケティング」と「パフォーマンス」の両輪

オルカンがここまで広く支持された理由について、宣伝を担当する山口裕士氏は大きく2つあると分析しています。

① 投資家を起点にしたマーケティング

1つ目は、マーケティングの力です。同社は投資家の声をただ聞くだけでなく、定性・定量の両面からその実態を分析してきました。データに裏打ちされた企画や施策を一つひとつ形にしてきたことが、結果的に世の中からの評価につながったといいます。

② 「見えにくい努力」が支える運用パフォーマンス

2つ目は、運用面で高いパフォーマンスを維持できたこと。ファンドマネジャーの村松祐介氏は、ここに大きな誤解があると指摘します。

オルカンは全世界の株式を時価総額の比率に沿って満遍なく保有することで、リスクを抑えつつリターンを狙う仕組みです。インデックス運用というと「ベンチマークに沿って機械的に運用しているだけ」と思われがちですが、実際にはタイミングの見極めや売買コストの抑制など、細かい手作業が多く、運用者の腕が問われる場面も少なくないとのこと。

「機械が運用していると思われがちですが……」

そんな目に見えにくい努力の積み重ねが、安定したパフォーマンスを支えているというわけです。


これからの課題は「安い」の先にあるブランドづくり

順風満帆に見えるオルカンですが、山口氏は「ブランド」という観点ではまだ課題が残ると語ります。

投資家にeMAXIS Slimの特徴を尋ねると、実に8〜9割が「低コスト」と答えるそうです。もちろん業界最低水準をめざすコストは大きな強み。ただ裏を返せば、「eMAXIS Slim=安い」というイメージで止まってしまい、それ以上の魅力が伝わりきっていないということでもあります。

そこで今、力を入れているのが付加価値としての情報発信。長期投資を実践する仲間がつながれるコミュニティサイト「オルカンカフェ」の運営をはじめ、LINEやInstagram、XといったSNSの活用も進め、ブランドとしての信頼感を高めようとしています。

ちなみにシリーズのキャラクター「eクマ」も、無機質になりがちな金融商品に温もりを添え、投資を身近に感じてもらうために生まれたのだとか。こうした細やかな工夫の一つひとつが、オルカンらしさをつくっているのですね。


オルカン誕生後の快進撃

最後に、誕生後のオルカンがどれだけ存在感を高めていったかを見てみましょう。

  • 2020年ごろには、投信積立を検索すると真っ先に「オルカン」という言葉が出てくるほどの話題に
  • 2024年1月の新NISAスタートで投資家の支持がさらに拡大
  • 2024年10月には純資産総額4.5兆円を達成
  • 2024年12月、日経トレンディ「2024年ヒット商品ベスト30」で“新NISA&オルカン投資”が第1位に
  • 同じく2024年12月、個人投資家が選ぶFund of the Yearでも1位を受賞

「投資家のリアルな声に応える」という原点から生まれた1本が、わずか数年で日本を代表する投資商品へと成長したことがよくわかります。


まとめ

オルカンは、突然のひらめきで生まれたヒット商品ではありませんでした。

  • eMAXIS Slim という低コストブランドの土台
  • 投資家との地道な対話から拾い上げた「日本を含む全世界に1本で」という要望
  • データに基づくマーケティングと、見えにくい運用努力

これらが重なり合って、自然と誕生へとつながったのです。

これから投資を始める人にとって、NISAでインデックスファンドの積立からスタートするのは有力な選択肢のひとつ。その代表格であるオルカンの背景を知っておくと、「ただ安いから」だけではない選び方ができるかもしれません。


この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

私は、経営コンサルタントとして、ビジネスの実践現場で活動しています。現場で「使える知識」として再構成し、“読む → 学ぶ → 行動する” までのビジネスプロセスをサポートしています。

このブログでは、そのようなコンサルティングの経験を通じて、役に立ったビジネス書を紹介します。おすすめ書籍の要約や感想だけでなく、実際に成果につながるエッセンス・行動アイデア・思考法を解説します。「この一冊を読んでどう変わるか?」にこだわったレビューを発信しています。

コメント

コメントする

目次