📖 レビュー
本書の最大の価値は、理論ではなく実践から生まれた「生きた知恵」が凝縮されている点にあります。著者の小山昇氏は、単なる経営コンサルタントではなく、自ら赤字企業を優良企業へと再生させた実務家です。そのため、本書に書かれている内容はすべて実際に効果が検証された手法であり、机上の空論とは一線を画しています。
特筆すべきは、銀行側の視点を理解した上での交渉術が紹介されている点です。多くの経営者が「銀行からお金を借りる=弱い立場」と考えがちですが、本書では銀行もビジネスパートナーであり、お互いにメリットがある関係を構築することの重要性が説かれています。「銀行が喜ぶことを積極的に行う」という姿勢は、一見媚びているように見えますが、実は長期的な信頼関係を築くための賢明な戦略なのです。
本書の構成も非常に実践的です。抽象的な理論ではなく、「根抵当権と抵当権の違い」「定期預金を何本かに分ける理由」「銀行訪問は15〜20分以内」など、具体的なアクションが明確に示されています。読後すぐに実践できる内容が多く、経営者にとっての「実用書」として優れた価値を持っています。
また、B/S経営の重要性を繰り返し強調している点も評価できます。多くの中小企業経営者がP/L(損益計算書)ばかりを気にしがちですが、本書では「資産はスリムに、現預金は厚く」というB/S視点での経営が詳しく解説されています。流動比率120%超えを目指すべき理由、自己資本比率より流動比率を重視すべき理由など、財務指標の本質的な意味が理解できます。
一方で、本書の内容は親会社を持たない独立系中小企業の経営者に特化しており、大企業の財務担当者や個人事業主にはそのまま適用できない部分もあります。また、著者の経営哲学が強く反映されているため、すべての経営者に当てはまるわけではない点には注意が必要です。
しかし、中小企業経営者、特に資金繰りに不安を抱えている方や、銀行との関係構築に悩んでいる方にとっては、本書は必読の一冊と言えるでしょう。読むだけで終わらせず、実践することで初めて価値が生まれる実用書です。
🎯 要点
1. 無借金経営より実質無借金経営を目指せ
無借金は美徳ではありません。重要なのは「現預金>借入金」の状態を作ること。借入をしながら手元キャッシュを潤沢に保つことで、緊急時や投資機会に即座に対応できる強い財務体質が構築できます。
2. 利息は会社を守る保険料である
支払利息を無駄な出費と考えるのは間違いです。利息は会社を守るための保険料と捉えるべきです。目安は経常利益の10%以内。金利が高いのは信用力が低いからであり、取引実績を積めば金利は下がります。
3. 銀行は返済見込みのある会社に貸す
銀行は利益が出ているから融資するのではありません。赤字でも確実に返済できる資金繰り能力がある会社に貸します。B/S(貸借対照表)を重視し、財務体質をスリムにすることが重要です。
4. 根抵当権ではなく抵当権で借りる
根抵当権は一旦全額返済しないと解消できず、他行への乗り換えが困難になります。抵当権なら融資ごとに設定するため、柔軟な資金調達が可能になります。担保設定の方法一つで、将来の選択肢が大きく変わります。
5. 銀行訪問は15〜20分以内、報告は全行に
銀行員の時間を奪わないこと。短時間で要件を伝え、誠実な対応を心がける。また、借入先が決まった後も、断った銀行にも必ず報告することで、次の機会につながる信頼関係を維持できます。
💭 読後の感想
本書を読んで最も印象に残ったのは、「借金=悪」という固定観念を根底から覆された点です。多くの日本人が持つ「借金は恥ずかしいもの」という価値観が、実は会社経営においては致命的な弱点になりうることを、具体的な数字と事例で示されて目から鱗が落ちました。
特に「黒字倒産」のリスクについての解説は衝撃的でした。利益が出ていても現金がなければ会社は潰れる。この当たり前の事実を、多くの経営者が軽視していることを改めて認識させられました。
また、銀行との関係を「対立」ではなく「Win-Win」として捉える視点も新鮮でした。銀行員の立場や評価基準を理解し、相手が喜ぶことを積極的に行うことで、結果的に自社にとって有利な条件を引き出せるという発想は、まさにビジネスパートナーシップの本質だと感じました。
本書は単なる資金調達の技術書ではなく、会社を永続させるための「お金の哲学書」でもあります。数字に強くなること、財務体質を常に意識すること、そして何より「会社を守るためには攻めの姿勢が必要」という教えは、すべての経営者が心に刻むべきメッセージだと思います。
👥 こんな人におすすめ
1. 中小企業の経営者・社長
売上1億円〜数十億円規模の中小企業を経営している方に最適です。特に資金繰りに不安を抱えている、銀行との関係構築に悩んでいる経営者にとっては必読の書です。
2. 創業・起業を考えている方
これから会社を立ち上げる方にとって、銀行との正しい付き合い方を最初から学べる貴重な機会です。創業時から適切な資金調達を行うことで、安定した成長が可能になります。
3. 財務・経理担当者
経営者だけでなく、財務や経理を担当する方にもおすすめです。B/S経営の重要性、銀行交渉の実務、資金繰りの考え方など、実務に直結する知識が得られます。
4. 事業承継を控えている後継者
親から会社を引き継ぐ予定の後継者の方には特におすすめです。先代とは異なる経営環境の中で、銀行との新しい関係を構築するための知識とノウハウが学べます。
5. 無借金経営に固執している経営者
「借金はしない」という信念を持っている経営者にこそ読んでほしい一冊です。借入の戦略的な活用方法を知ることで、会社の成長スピードを加速させることができます。
⭐ 総合評価:★★★★☆
【評価の内訳】
実践性:★★★★★ 具体的なノウハウが満載で、読後すぐに実践できる内容が多い。銀行交渉の具体的な手順、財務指標の目安、担保設定の方法など、実務に直結する情報が豊富です。
わかりやすさ:★★★★☆ 専門用語も多いですが、著者の経験に基づいた具体例が多く、理解しやすい構成です。ただし、財務の基礎知識がある程度ないと難しい部分もあります。
独自性:★★★★★ 現役経営者が実践して成果を上げた手法が紹介されており、他の財務本にはない独自のノウハウが満載です。特に銀行側の視点を取り入れた交渉術は秀逸です。
汎用性:★★★☆☆ 中小企業経営者には非常に有益ですが、大企業や個人事業主には適用しにくい内容です。また、親会社を持つ企業の財務担当者には参考にならない部分もあります。
読みやすさ:★★★★☆ ページ数は多くなく、章立ても明確で読みやすい。ただし、B/SやP/Lなどの財務諸表の知識が前提となる部分があるため、初心者には少しハードルが高いかもしれません。
【総評】 中小企業経営者にとっては間違いなく★5つの価値がある書籍ですが、対象読者が限定的であること、財務の基礎知識が必要であることを考慮して★4つとしました。しかし、該当する読者にとっては会社の未来を変える可能性を秘めた一冊です。単に読むだけでなく、実践することで初めて真価を発揮する実用書として、強く推薦します。


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