⭐ レビュー
『投資家みたいに生きろ[増補版]』は、従来の自己啓発書とは一線を画す、極めて実践的で説得力のある内容に仕上がっています。著者の藤野英人氏は、投資の世界で培った独自の視点を惜しみなく披露し、読者に新たな人生観を提示してくれます。
本書の最大の魅力は、「投資」という概念を金融商品の売買に限定せず、人生全般に応用可能な思考法として再定義している点です。5つのエネルギー(主体性・時間・お金・決断・運)という切り口は非常にわかりやすく、自分の人生を見つめ直すための優れたフレームワークとなっています。特に「主体性」を筆頭に置いている点は、著者の本質的な考え方を表しています。
増補版として2025年に改訂された本書は、インフレ時代とAI時代という2つの大きな変化を踏まえた内容になっており、タイムリーさにおいても申し分ありません。デフレからインフレへの転換によって「行動する人の価値」が高まっていること、AI時代においてこそ学びと教養が重要になることなど、現代を生きる私たちに必要な視点が凝縮されています。
文章は平易で読みやすく、具体例も豊富です。「10億円手に入れたら何をするか」という問いかけは、自分の本当にやりたいことを見つけるための秀逸な思考実験です。また、日本人の従業員エンゲージメントが世界26カ国中25位という衝撃的なデータは、私たちの働き方に対する認識を改めさせてくれます。
ただし、本書の提案する「長く働き続ける」「投資に回す」という解決策は、すべての人にとって実現可能とは限りません。健康状態や経済状況によっては難しい場合もあるでしょう。その点で、やや理想論に傾いている印象は否めません。
それでも、将来への不安を漠然と抱えている人、人生の方向性に迷っている人にとって、本書は確実に価値ある一冊です。投資家という職業に就くためではなく、投資家「みたいに」生きるための実践的ガイドとして、多くの読者に新しい視座を与えてくれるでしょう。
💡 要点
- 希望最大化思考へのシフト – 「失望を最小化する」のではなく「希望を最大化する」生き方にシフトすることで、未来の選択肢が広がる。行動しないこともリスクであると認識し、適切なタイミングでリスクを取る勇気が必要。
- 5つのエネルギー投資 – 投資とは【主体性】【時間】【お金】【決断】【運】という5つのエネルギーを未来に投入すること。特に主体性を持ち、本当にやりたいことを見極めることが全ての起点となる。
- インフレ×AI時代の戦略 – デフレ時代は行動しない人が有利だったが、インフレ時代は挑戦する人のリターンが大きくなる。AI時代においても学びの重要性は高まっており、知識と教養の量は爆増している。
- 長期視点と自己投資 – 即効性よりも長期視点が重要。1万時間の法則が示すように、コツコツと積み重ねたスキルや知識は確実に自分の価値となる。70歳になっても楽しく続けられる仕事を選ぶべき。
- 将来不安の4つの解決策 – 将来への不安は①若いうちにたくさん稼ぐ、②支出を抑える、③長く働き続ける、④投資に回す、の4つの組み合わせで解決できる。全てを実践する必要はなく、自分に合った組み合わせを見つけることが大切。

📝 読書の感想
この本を読んで最も印象的だったのは、「投資」という概念の捉え方が根本から変わったことです。これまで投資といえば株や不動産といった金融商品を思い浮かべていましたが、本書は人生そのものを投資対象として考える視点を与えてくれました。
特に共感したのは、「行動しないこともリスク」という指摘です。失敗を恐れて何もしないことが、実は最大の機会損失になっているという気づきは、自分の日常行動を見直すきっかけになりました。また、「10億円手に入れたら何をするか」という問いかけは、お金という制約を外したときに本当にやりたいことが見えてくる優れた思考法だと感じました。
増補版として追加されたインフレ×AI時代への言及も非常にタイムリーです。AI時代だからこそ学びの重要性が増すという指摘は、AIに仕事を奪われるという漠然とした不安を前向きな行動に変えてくれます。
ただ、理想論的な部分もあり、すべての人がこの生き方を実践できるわけではないとも思います。それでも、投資家的思考を取り入れることで、人生の選択肢が広がることは間違いありません。将来への不安を抱える多くの人にとって、行動への一歩を踏み出す勇気をくれる良書だと感じました。
👥 こんな人におすすめ
- 将来の経済的不安を抱えている20代〜40代のビジネスパーソン – 老後2000万円問題などの将来不安に対する具体的な解決策を知りたい人に最適。投資家的思考で不安を行動に変える方法が学べます。
- キャリアの方向性に迷っている人 – 「本当にやりたいこと」を見つけ、70歳まで楽しく働き続けられる仕事を探したい人。主体性を取り戻し、人生の舵を自分で握りたい人におすすめ。
- 投資初心者で金融リテラシーを高めたい人 – 投資に対してネガティブなイメージを持っている人や、新NISAなどを始めたいけれど一歩踏み出せない人。投資の本質を理解できます。
- 変化の激しい時代に適応したいと考えている人 – インフレ時代やAI時代の到来に不安を感じている人。時代の変化を味方につけ、むしろチャンスと捉えるための視点が得られます。
- 自己投資の重要性を理解し実践したい人 – スキルアップや学び直しに興味がある人。時間やお金を未来への投資として捉え、長期的な成長を目指す人に役立つ内容です。
⭐ 総合評価:★★★★☆
【評価理由】
本書は投資家的思考を人生全般に応用するという独創的なコンセプトで、読者に新しい視座を提供する優れた一冊です。5つのエネルギー(主体性・時間・お金・決断・運)というフレームワークは分かりやすく、実践的です。特に増補版として、インフレ×AI時代という現代的な文脈を加えた点は高く評価できます。
文章は平易で読みやすく、具体例も豊富で説得力があります。投資の本質を「エネルギーを投入して未来からお返しをいただくこと」と再定義した視点は秀逸で、金融商品への投資だけでなく、自己投資や時間投資といった広い概念で人生を捉え直すきっかけを与えてくれます。
ただし、「長く働き続ける」「投資に回す」という解決策は、やや理想論的な部分もあり、すべての人の状況に当てはまるわけではありません。また、投資家という職業の視点からの提案が中心なため、実際にサラリーマンや自営業の立場でどう実践するかについては、もう少し具体的な事例があればより良かったと感じます。
それでも、将来への不安を漠然と抱える現代人にとって、本書は確実に価値ある指針となるでしょう。★5つではなく★4つとしたのは、実践面での具体性にやや欠ける部分があるためですが、思考法を学ぶ書としては十分に推薦できる良書です。


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