レビュー
私たちの多くは、「老後が不安」「将来のためにもっと稼がなければ」といった“お金の不安”に日々悩まされています。こうした漠然とした不安の正体に迫り、それを乗り越えるための新しい視点を提示してくれるのが、本書『お金の不安という幻想』です。
著者の田内学氏は、元ゴールドマン・サックスのトレーダーという経歴を持ちながら、現在は「お金の教育者」として活動しています。その経験を生かし、金融リテラシーだけでなく、現代社会の構造や人間関係、お金に対する価値観までを深く掘り下げています。
本書では、「お金の不安とは幻想である」という視点を軸に、全8章でその背景と解決の糸口を論じます。例えば、投資とギャンブルの違いを明確にすることで、情報に流されない判断力の重要性を説いたり、企業依存の働き方からの脱却を促したりと、現代人が直面するリアルな問題に切り込みます。
さらに、「愛や信頼といった非貨幣的資本」や「子どもの未来への視点」など、お金では測れない豊かさに目を向けるよう促します。単なる金融知識ではなく、「人生におけるお金の役割とは何か?」を根本から問い直す内容です。
文章は平易で読みやすく、複雑な金融知識を知らなくても理解できるよう丁寧に構成されています。堅苦しい経済書というよりも、現代を生きる私たちの「価値観を問い直す教養書」と言えるでしょう。
要点
- お金の不安は「幻想」であり、社会やメディアによって作られている。
- 不安をあおる情報は、しばしば「誰かのビジネス」である。
- 投資とギャンブルの違いを理解し、自分で考える力が必要。
- 会社に依存せず、自分の価値を生む力がこれからの安定。
- お金よりも、信頼や仲間といった人間関係資本が重要。
- 社会課題を個人責任にすり替える風潮に注意が必要。
- お金は万能ではなく、幸福やつながりは別の尺度が必要。
- 真の投資は、労働を減らし、自由を生むための手段である。
- 子どもの絶望にこそ、大人が学ぶべき未来への希望がある。

感想
読み進めるうちに、自分が「どれほどお金に対して不安を抱いていたか」、そして「その不安の多くが実体のない“幻想”であったか」に気づかされます。
特に印象的だったのは第1章の「その不安は誰かのビジネス」という視点です。SNSやニュースで流れる「老後2000万円問題」「年金崩壊」といったワードに脅かされ、焦るあまり保険や副業、投資情報に飛びついてしまう現代人の姿は、まさに自分自身でした。しかし、その焦りこそが“商品”として活用されているという指摘には、ハッとさせられます。
また、投資=お金儲けという短絡的な発想から脱却し、「人の仕事を減らすことが投資」という考え方も新鮮でした。生産性を高める本来の意味や、人間の労働を軽くするという発想が、これまでの資本主義的成功モデルとは異なる未来の可能性を感じさせます。
さらに、家族や友人との信頼関係が「お金以上の安心感」を生むという視点は、コロナ禍を経験した私たちにとって非常にリアルです。金融資産の大小よりも、誰とどんな関係を築けているかが人生の充実に直結していることを思い出させてくれます。
著者は、お金を否定しているのではなく、「過度に依存しないで生きる道」を示しています。それは、数字の大小で一喜一憂するのではなく、自分自身の価値や時間、つながりに目を向けること。その積み重ねが、幻想からの解放につながるのだと思います。
こんな人におすすめ
- 将来へのお金の不安を抱えている人
- 投資や副業に興味はあるが、何を信じてよいか分からない人
- 経済やお金に振り回されず、自分らしく生きたいと考えている人
- 子どもに「希望ある未来」を残したいと願う親世代
- 「稼げる自分」から「価値を生み出す自分」への転換を考えたい
総合評価:4.7 / 5.0
| 項目 | 評価 |
|---|---|
| 読みやすさ | ★★★★★ |
| 実用性 | ★★★★☆ |
| 気づき・学び | ★★★★★ |
| 情報の新しさ | ★★★★☆ |
| コストパフォーマンス | ★★★★★ |
レビューまとめ
『お金の不安という幻想』は、単なる「不安を解消する方法論」ではなく、私たちの根本的な価値観と向き合うための一冊です。「一生働く時代」を前提に、不安ではなく希望を軸に人生を設計していくためのヒントが満載です。お金の知識に自信がなくても、人生に迷いや焦りを感じているすべての人に読んでほしい、現代を生き抜くための知的な羅針盤といえるでしょう。


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