レビュー
本書『89歳、現役トレーダー 大富豪シゲルさんの教え』は、投資歴70年、資産24億円を築いた実在の人物・藤本茂氏の知見を、読みやすい小説形式で描いた異色の投資書です。
主人公は、家庭にも仕事にも閉塞感を抱える40代のサラリーマン。偶然拾った一冊の手帳が縁となり、89歳の現役トレーダー“シゲルさん”と出会い、株式投資の基礎から人生の考え方に至るまで、多岐にわたる教えを受けていきます。
物語は一貫して、“株式投資は人間心理の読み合い”という視点で進行します。株価を動かすのは決算でもチャートでもなく、「欲と恐怖」だと語るシゲルさん。彼は、一般的な教科書的な投資理論よりも、実践的かつ心理的なアプローチを重視します。「暴落はチャンス」「群衆と逆の行動をとれ」「配当金こそが安定の源」といった助言は、長年の経験と実戦に裏打ちされた“生きた知恵”です。
小説という形式の利点を活かし、知識ゼロの読者でもスムーズに読み進められる構成になっており、専門用語も丁寧に噛み砕いて解説されています。さらに、物語を通じて投資初心者の主人公が失敗と成長を繰り返すことで、読者も自然と学びを得られる工夫がされています。
本書は、投資の入門書としてだけでなく、「働くこと」「お金との向き合い方」「家族との関係」など、現代人が直面する問題にも静かに寄り添う一冊です。単なるノウハウではなく、「生き方」を問う作品でもあり、読み終えた後には、投資に対する理解以上に、自身の価値観を見直すきっかけを与えてくれます。
要点
- 株式投資は「欲と恐怖」という人間心理が動かしている。
- 数字やチャートの背後にある“人間の感情”を読む力が必要。
- 「暴落」はバーゲンセール。みんなが怖がっているときこそチャンス。
- 企業選びの基準は「増収・増益・増配」。
- 株とは“一緒に生きていく”家族のような関係を築ける銘柄に投資すべき。
- 損切りや手を出さない勇気も、投資戦略の一つ。
- 他人に任せず、「自分のお金は自分で責任を持つ」姿勢が大事。
- 投資の本質は、自己認識と成長にある。
- 相場は「人の群れに逆らう」ことで勝機を見出せる。
- 小説形式のため、初心者でも感情移入しながら楽しく学べる構成。
感想
まず印象的だったのは、シゲルさんの語り口です。関西弁を交えた独特の語りは親しみやすく、上から目線になることなく、初心者に寄り添う姿勢が一貫しています。投資というとどうしても“冷徹な金儲け”のイメージがありますが、シゲルさんの教えはむしろ人間味に溢れていて、「投資とは自己理解のプロセスである」と語りかけてくるようでした。
「株っちゅうのは、家族にならなアカン」や「暴落はチャンス」といった名言は、単なる技術論ではなく、人生の局面でも通じる考え方だと感じました。特に「怖いと思うんは、ただ経験がないからや」という一言には、投資だけでなく、新しい挑戦に対する向き合い方としても深く共感しました。
また、小説仕立ての構成が非常に効果的です。主人公の境遇は、多くの読者が抱える不安(住宅ローン、教育費、老後資金、仕事の行き詰まり)と重なりやすく、自然と感情移入できます。投資テクニックを語るだけではなく、「なぜ人は投資に踏み出せないのか」「何に縛られているのか」など、心理的なブロックにまで踏み込んで描かれている点が、他の投資本との大きな違いです。
ただし、フィクション性が強いため、純粋な投資理論の解説書を期待する方にはやや物足りない部分もあるかもしれません。しかし、投資初心者が最初に読む一冊としては、モチベーションと実践知のバランスが非常に優れていると感じました。感情を動かされながら知識も身につく、そんな“投資と人生の教養書”とも呼べる作品です。
こんな人におすすめ
- 株式投資に興味はあるが、難しそうで踏み出せない人
- 金融知識が少なくても、実話ベースの学びを得たい人
- 投資で失敗した経験があり、心構えを見直したい中級者
- 数字ではなく“人の感情”で相場を読みたい人
- 自分の生き方や働き方にも迷いを感じている人
総合評価
| 評価項目 | 点数 | コメント |
|---|---|---|
| 読みやすさ | ★★★★★ | 小説形式でスラスラ読める構成。投資初心者でも安心。 |
| 実用性 | ★★★★☆ | 理論よりもマインド中心。投資の“本質”を学べる。 |
| 情報の深さ | ★★★★☆ | 深い示唆は多いが、技術解説は控えめ。 |
| 独自性 | ★★★★★ | 89歳の現役トレーダーの実体験という圧倒的説得力。 |
| 感動・共感 | ★★★★★ | 投資本として異例の「感情に響く」読書体験。 |
→ 総合評価:4.6 / 5.0


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