レビュー
『ウェルビーイングビジネスの教科書』は、近年注目される「ウェルビーイング(well-being)」の概念をビジネスに応用するための実践的な一冊です。著者の藤田康人氏は、キシリトールブームを仕掛けた実績を持つマーケティングの第一人者であり、本書ではその豊富な経験をもとに、「人々の幸福」を起点とした商品・サービス開発や企業戦略のあり方を明快に提示しています。
本書の核にあるのは、「関係性のリデザイン」という考え方です。これは、モノを売るのではなく、そのモノを使うことで得られる体験や感情、社会的つながりを重視するという、従来のマーケティングを根本から変える視点です。たとえば、「友達ができるビール」「家族との時間が増える洗剤」といった具合に、商品の持つ意味を拡張するアプローチが紹介されます。
加えて、ライフサイエンス領域で進む老化制御や予防医療、メンタルヘルスの最新研究といった知見も取り上げられ、ビジネスと幸福の関係を多角的に描いている点が特徴です。ウェルビーイングを“ポストSDGs”と位置づけ、今後の日本においても中核となる価値観であることを訴えます。
企業活動だけでなく、働き方、生き方そのものを問う内容も含まれており、経営者・マーケター・商品企画担当者はもちろん、これからの社会の方向性を知りたい人にも示唆に富む内容となっています。
要点
- ウェルビーイング=身体・精神・社会の全体的幸福
- 幸福は経済的成功から「自分らしさ・持続性」へと変化
- 世界的には「ポストSDGs」として注目される概念
- 商品と生活者の関係を再構築する「関係性のリデザイン」
- ライフサイエンス領域でのウェルビーイング応用が進行中
- 企業は“本物の幸福”に寄与する設計が競争力になる
- 注意:見せかけの“ウェルビーイング・ウォッシュ”は逆効果
要点
- ウェルビーイング=身体・精神・社会の全体的幸福
- 幸福は経済的成功から「自分らしさ・持続性」へと変化
- 世界的には「ポストSDGs」として注目される概念
- 商品と生活者の関係を再構築する「関係性のリデザイン」
- ライフサイエンス領域でのウェルビーイング応用が進行中
- 企業は“本物の幸福”に寄与する設計が競争力になる
- 注意:見せかけの“ウェルビーイング・ウォッシュ”は逆効果
読後の感想
読み進めるうちに強く印象に残ったのは、「ビジネスの目的は“売る”ことではなく、生活者の幸せに貢献することだ」というメッセージです。ウェルビーイングはもともと医学・心理学の文脈で語られることが多い言葉ですが、本書ではそれをマーケティングや商品開発の現場でどのように活かせるかを、非常に具体的かつわかりやすく紹介しています。
中でも「関係性のリデザイン」という視点は斬新でした。多くの企業が“機能”や“価格”だけで競争する中で、「どんな体験を生むか」「どんな感情をもたらすか」という観点で商品を捉え直すことで、まったく新しい市場やニーズが見えてくることが、豊富な事例を通して理解できます。
一方で、やや物足りなさを感じたのは、「ウェルビーイングの導入プロセス」に関する具体的な手順やフレームワークが限定的であった点です。読者自身に応用力が求められる内容であり、実務レベルでの展開を考える際には補助資料やワークショップ的な補完があると、より使いやすくなると感じました。
また、好意的に受け取る一方で、「ウェルビーイング・ウォッシュ(見せかけの幸福)」への懸念にも触れており、単なる流行に便乗したような薄っぺらい施策では、かえってブランドイメージを損なうリスクもあるという指摘は重要です。つまり、生活者に“本気”で向き合う覚悟が企業側にも必要ということでしょう。
総じて、本書は「人を幸せにするビジネスとは何か?」という問いに真正面から向き合う意欲的な内容であり、これからの時代を生き抜くヒントが詰まった一冊です。
こんな人におすすめ
- 企業の商品企画・マーケティング担当者
- 新規事業開発にウェルビーイングの視点を取り入れたい方
- SDGsやESG経営に取り組む経営層
- 人生100年時代の働き方・生き方を模索しているビジネスパーソン
- 「人のためになるビジネス」を志す起業家・学生
評価まとめ
| 評価項目 | 点数(5点満点) | コメント |
|---|---|---|
| 内容の充実度 | ★★★★☆ (4.5) | 事例と解説のバランスが良いが、導入手順にやや物足りなさあり |
| 読みやすさ | ★★★★★ (5.0) | 図表や具体例が多く、読み進めやすい構成 |
| 実用性 | ★★★★☆ (4.0) | 考え方の提示が中心。応用には工夫が必要 |
| 独自性 | ★★★★★ (5.0) | 「関係性のリデザイン」は革新的な視点 |
| 総合評価 | ★★★★☆ (4.5) | 「幸せを生むビジネス」を考えたいすべての人に薦めたい一冊 |


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