🟩書籍紹介
「イノベーション」という言葉を聞くと、多くの人が天才や起業家を思い浮かべます。しかし、本書『超凡人の私がイノベーションを起こすには』は、その常識を見事に覆します。著者・杜師康佑氏は、経済産業省や企業の現場でイノベーション推進を支援してきた実践者であり、「特別な人でなくても、日常の延長線上から変革を起こせる」と説きます。
本書は、理論だけでも現場経験だけでもない「理論×実践」を軸に構成されています。デザイン思考やシステム思考といった既存の枠組みを紹介しながらも、それを実際の組織・個人の行動にどう落とし込むかが丁寧に描かれています。特に印象的なのは、第2章の「アウェイに飛び出す」というテーマ。既存の価値観を手放す“アンラーニング”や、今ある資源から行動を起こす“エフェクチュエーション”の考え方は、閉塞感を打ち破るヒントに満ちています。
さらに後半では、イノベーションを「一発の成功」ではなく「続ける文化」としてどう定着させるかを、IMSや両利きの経営などの理論をもとに実践的に解説。社会課題や多様性と結びつけた視点も特徴的で、単なるビジネスの枠を超え、「社会と共に価値を創る」思想が貫かれています。日本企業の現状と可能性を冷静に見つめながらも、未来への希望を感じさせる内容です。
🟦感想
本書の最大の魅力は、「イノベーションの民主化」を体現している点です。イノベーションを特定の才能や職位に依存させず、誰もが参加できる学習プロセスとして提示しているところに、強い現場感があります。著者自身が「自分も超凡人」と語る姿勢にも説得力があり、読者は心理的ハードルを下げた状態で内容に入り込めます。
読んでいて印象に残ったのは、「失敗を学びに変える仕組み」や「異分野との越境」を繰り返す重要性です。多くの企業が失敗を恐れて挑戦を止めてしまう中で、本書は失敗を「データ」として再利用する思考法を提示します。これは組織だけでなく、個人のキャリアにも通じる視点です。
また、社会課題や多様性をイノベーションの出発点とする考え方にも共感を覚えます。たとえば「カーブカット効果」や「地域コングロマリット」の事例は、ビジネスと福祉、経済と倫理をつなぐ示唆に富んでいます。著者の言葉を借りれば、「優しさが競争力になる」時代の到来を感じさせます。
一方で、専門用語の多さにやや難しさを感じる部分もありますが、それを補うように具体的なストーリーや事例が豊富に挿入されており、読者の理解を助けています。理論書でありながら、現場の温度が伝わる稀有な一冊です。
🟨おすすめ読者
- 企業で新規事業や企画を担当している方
- 組織の停滞感を打破したいリーダー層
- 社会課題や地域づくりに関心のある実践者
- 「自分には特別な才能がない」と感じているすべての人
特に、イノベーションを「大きな発明」ではなく「小さな変化の積み重ね」として捉えたい人には、実践の教科書となるでしょう。
⭐総合評価
| 項目 | 評価(★5段階) | コメント |
|---|---|---|
| 内容の深さ | ★★★★★ | 理論と現場の接続が秀逸 |
| 読みやすさ | ★★★★☆ | 用語は多いが構成が明快 |
| 実用性 | ★★★★★ | 個人・組織両面で応用可能 |
| 独自性 | ★★★★☆ | 「凡人視点」の切り口が新鮮 |
| 総合評価 | ★★★★★ | 日本型イノベーションの新しい指針 |
💬総評
『超凡人の私がイノベーションを起こすには』は、イノベーションを「才能の物語」から「学びと共創のプロセス」へと書き換える一冊です。小さな実践の積み重ねが社会を動かすという希望を感じさせ、読後には「自分にもできるかもしれない」という前向きな感情が残ります。
イノベーションを“自分ごと”として再定義したい人に、強くおすすめしたい良書です。


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