レビュー
本書『生成AI「戦力化」の教科書』は、ChatGPTに代表される大規模言語モデル(LLM)を、企業の業務にどう「戦力」として組み込むかという視点で書かれた実践的ガイドブックです。
著者は、Gunosy・DMM.com・LayerXなどでCTOを歴任し、現場レベルから経営視点に至るまでAI活用に関わってきた松本勇気氏。豊富な実績を持つ著者が、自らの経験をもとに「生成AI導入の成功パターンと失敗パターン」を明快に解説しています。
本書がユニークなのは、AIを「誰もが雇える優秀な新入社員」と見立て、その新人にどう仕事を教え、組織の中で活躍できるようにするかを丁寧に描いている点です。単に便利なツールとしてではなく、AIを“育成”し“定着”させるというアプローチは、これまでのAI本とは一線を画します。
導入のためのキーワードは「ワークフロー」と「ナレッジベース」。業務を細かく分解し、AIが担うべき工程を定義し、必要な知識を構造化して提供する。このプロセスがまさに“AIオンボーディング”であり、成功の可否を分ける重要な要素です。
さらに、AIをタスク処理にとどめず、対話型エージェントとして活用することで、より柔軟で高度な業務遂行が可能になります。最終的にはAPIや他システムと連携し、自律的に業務を回す「業務の自動運転」も視野に入れた構成となっています。
リスク対策や社内教育、法務面の配慮にも言及されており、単なる技術紹介にとどまらず、企業全体でのAI活用の在り方を体系的に学べる内容です。
要点
- 日本企業には「業務を変えない」AI導入が有効
- 生成AIは「知識のない賢い新人」として扱うと理解しやすい
- AIオンボーディングにはワークフローとナレッジベースの整備が必要
- 業務効率化は「AIが得意な形」に業務を再構成するのがポイント
- 対話型エージェントへの進化により柔軟な運用が可能になる
- 完全自動化にはAPI連携と人間のモニタリング設計が不可欠
- 情報漏洩・誤情報などのリスク対策と社内ルール整備が重要
- 社員全員がAIを使える状態をつくることが企業競争力につながる
読後の感想
本書は「ただAIを入れる」から「AIを活かす」への視点転換を促してくれる一冊です。AI導入に関する書籍の多くが技術やトレンドの紹介に終始する中で、本書は圧倒的に“現場目線”に立っています。
特に印象的だったのは、「業務を変えないデジタル化」という考え方。一般的なDX推進論では「業務そのものを刷新せよ」という指示が多い中で、本書は“現場が受け入れやすい方法で成果を出す”ことを重視しています。これは日本企業の実情に非常にマッチしており、多くの企業が「これならできそう」と感じられるアプローチではないでしょうか。
また、「AI=新人社員」というたとえは非常に秀逸です。これにより、AIに何を期待すべきか、どう教えるべきかが直感的に理解でき、AI活用がぐっと身近になります。業務のワークフロー化やナレッジベースの整備も、人材育成の延長線として捉えることで、抽象的になりがちな概念が具体的に見えてきます。
さらに、対話型エージェントという概念は、現在のLLM活用の最先端を表しています。単なる自動化から一歩進んだ「協働」のあり方を描きつつ、実現までのステップを現実的に紹介しているのはさすがです。
一方で、AI導入による情報漏洩や誤情報といったリスクにも丁寧に言及しており、ただの楽観論では終わらないバランス感覚も好印象でした。法務やセキュリティとの連携、社員教育の必要性など、経営層にとっても重要なポイントが網羅されています。
AI時代において、単なる知識習得ではなく、「どう使うか」「どう育てるか」が問われる中、本書はまさに現場と経営をつなぐ架け橋となる一冊でした。
こんな人におすすめ
- 生成AIの社内導入を検討している経営者・事業責任者
- DX・AI活用を現場に根付かせたい推進担当者
- 技術的知識は少ないが、実務レベルでAIを活用したいビジネスパーソン
- LLMを「ツール」ではなく「パートナー」として使いたい方
総合評価
読みやすさ★★★★☆(専門用語も丁寧に解説)
実用性★★★★★(導入手順が非常に具体的)
新しさ・独自性★★★★★(“AIの戦力化”という視点が革新的)
汎用性★★★★☆(多くの業種に応用可能)
総合おすすめ度★★★★★


コメント