レビュー
本書『コンサルだけが知っている 伝え方のテンプル』(田中 耕比古 著)は、「伝える力」を構造的に鍛えるための実践書です。著者・耕比古氏は、コンサルティングの現場で数多くの経営者やチームに助言してきた経験をもとに、どんな相手にも伝わる「話の型」を体系化しました。タイトルにある“テンプレ”とは、単なる話し方のパターンではなく、考えを整理し、相手の理解を導くための「思考の構造」そのものを指します。
序盤では、「伝わらない人」は知識や表現力の不足ではなく、“構造を持たない”ことが問題だと断言します。優れた伝え手は、話す前に「どんな型で伝えるか」を明確にし、状況に応じて最適な構成を選択します。テンプレを持つことで、動揺せず一貫した論理を展開できるのです。
中盤では、「言語化テンプレ」「伝え方テンプレ」と題して、実際に使える型を多数紹介。時系列、主観と客観、Before→Afterなど、頭の中を整理しながら話を組み立てる方法が豊富に提示されます。また、プレゼン・商談・報告・企画・依頼といったビジネスシーン別の活用法も充実しており、すぐに実務へ応用できる点も魅力です。
著者が一貫して強調するのは、「テンプレは模倣ではなく、思考を支える支柱である」という考え方。型を使うことで自分の癖や欠点が可視化され、最終的には自分なりの“伝え方の型”を確立できるという、実践的かつ哲学的なメッセージが込められています。
要点
- 伝える力はセンスではなく「構造」で習得できる。
- 「テンプレ」は思考と伝達の支柱であり、再現可能な型。
- 言語化テンプレで頭の中を整理し、抜け漏れを防ぐ。
- 伝え方テンプレで「結論→共感→会話→信頼」の流れをつくる。
- 5つのシーン別テンプレで即実践が可能。
- テンプレを通して「自分の型」を育てることが最終目的。
感想・評価
本書の最大の魅力は、「伝える技術」を感覚論ではなく、再現可能な仕組みとして提示している点です。多くのビジネス書が「結論から話そう」「相手の立場に立とう」といった抽象的なアドバイスで終わる中、本書は「どんな順番で、どんな構造で伝えるか」をテンプレート化しています。そのため、読者は“何をすればいいか”が明確になり、すぐに実践へ移しやすい構成です。
また、テンプレが単なるマニュアルにとどまらず、読者の思考力を育てる「道具」として位置づけられている点が秀逸です。構造を身につけることで、論理だけでなく感情も整理され、相手への共感や納得を自然に生み出せるようになる。これは単なる話し方本ではなく、「考えを伝わる形に変換するための思考法」の書とも言えます。
特に印象的だったのは、「引き算テンプレ」や「お膳立てテンプレ」のように、あえて“伝えすぎない”ことを勧めている部分です。情報過多な時代において、相手の判断を尊重し、余白を残す姿勢が信頼を生むという指摘には深く共感しました。
総じて、本書は論理的思考を重視する人だけでなく、人とのコミュニケーションに課題を感じているあらゆるビジネスパーソンにおすすめできます。初学者にも理解しやすく、かつ熟練者にも新たな視座を与える構成です。
おすすめポイント
✅ 構造的に「伝える力」を身につけたい人に最適
✅ プレゼン・報告・商談など、実務で即使えるテンプレ多数
✅ 「思考整理×感情設計」の両輪で伝達精度を高める
✅ 話し方だけでなく「考え方」も磨ける一冊
総合評価
⭐️⭐️⭐️⭐️☆(4.8/5)
論理性・実用性・再現性の三拍子が揃った“伝え方の教科書”。
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