『すぐ役に立つものはすぐ役に立たなくなる』(荒俣 宏 著)

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レビュー

『すぐ役に立つものはすぐ役に立たなくなる』は、知識やスキルが“効率化”と“即効性”によって消耗品のように扱われる現代社会に対して、異なる視点から「知のあり方」を問い直す書です。著者の荒俣宏は、博覧強記の知識人として知られ、長年にわたって文化・博物学・幻想文学・科学など多彩な分野を横断してきました。本書では、その知的探究のエッセンスをもとに、「AIに勝てる人間とは何か」「学びとは何か」「偶然や遊び心の意味とは何か」をユーモラスに、そして深く掘り下げています。

全10章構成で、テーマは多岐にわたりますが、根底に流れる思想は一貫しています。それは「すぐに役立たないものこそ、長い目で見れば最大の力になる」という逆説的な知恵です。第1章では「0点主義」を提唱し、失敗や未完成を恐れない心を勧めます。第2章では日本語という曖昧で不思議な言語を通して、創造性の源を探り、第3章では「WHYを問う力」こそがAI時代の知性を支えると述べます。中盤では、偶然や縁を学びに活かす“セレンディピティ学”を展開し、後半では情報整理や効率主義への批判、そして「苦手」「あきらめ」「間違える権利」など、人間の弱さを包み込む学びの姿勢が示されます。

本書の魅力は、教訓的でありながらも決して説教臭くならない点です。荒俣氏独自のユーモアと語り口が随所に光り、学問を“生きる遊び”として描き出しています。AIが万能に見える時代に、「人間の不完全さこそ叡智の源」というメッセージが心に残ります。

感想

読了後にまず感じるのは、「学び」や「知識」を取り巻く価値観が静かに覆されるような感覚です。荒俣宏の語る“0点主義”は単なる自己肯定ではなく、「結果より過程を重視する知的誠実さ」の象徴です。AIが全問正解を出せる時代だからこそ、あえて0点を取る勇気——つまり「間違える」「寄り道する」ことが、人間らしい知の形なのだと気づかされます。

また、「偶然を受け入れる」や「日本語を疑う」といった章では、学びが知識の蓄積ではなく、感性の開放であることを再確認させられます。荒俣氏は、どんなに非効率で無駄に見える体験も、後になって必ず“意味”を持つと語ります。その視点は、社会全体が「即戦力」「生産性」「効率」を重視する今だからこそ、深く響きます。

印象的だったのは、「AIはWHYを問えない」という一節。ChatGPTなどの登場で、情報の取得は一瞬でできるようになりました。しかし、情報を「なぜそうなのか」と問い直す行為こそが、人間固有の知性であると説く著者の言葉は重みがあります。

文章は軽快で、博識ながらも難解さを感じさせません。文学・科学・歴史・宗教などあらゆる領域を横断しながらも、テーマは一貫して「人間の知の愉しさ」です。読後には、「もっと無駄なことを楽しもう」「結果を急がずに考える時間を持とう」という気持ちに自然となります。AIと共存する時代に、“考える喜び”を取り戻す一冊です。

要点

  • 「即効性」よりも「持続性」が真の教養をつくる。
  • 0点を恐れず、アマチュア精神で挑戦する。
  • 日本語の曖昧さに創造の種がある。
  • AIにできない「WHY」を問う姿勢を持つ。
  • 偶然・縁・不人気分野を味方にする。
  • 情報整理より「違和感」を感じ取る力を磨く。
  • 下世話な興味・遊び心が発想の源。
  • 苦手や失敗を恐れず、あきらめることで成熟する。
  • 読書と環境づくりが最高の学びの場になる。
  • 「間違える権利」を認めることが創造力の根源。

おすすめポイント

  • AIや効率主義に違和感を覚える人に。
  • 勉強・学び直しを“楽しみ”として取り戻したい読者へ。
  • 教養や知的生活に興味がある社会人・学生。
  • クリエイティブ職・研究職・教育関係者にも強くおすすめ。

評価

  • 内容の深さ:★★★★☆
  • 読みやすさ:★★★★★
  • 実用性:★★★☆☆(即効性はないが、持続力あり)
  • 独創性:★★★★★
  • 総合評価:4.5 / 5.0

総評

荒俣宏が説く「すぐ役に立たないものこそ、長く生き残る知恵」という思想は、AI時代の知的生存戦略と言える。効率の波に飲み込まれず、自分の興味・偶然・遊び心を信じて学ぶことが、真に「役に立つ」力を育てる。知的冒険を楽しみたいすべての人に読んでほしい一冊です。

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この記事を書いた人

私は、経営コンサルタントとして、ビジネスの実践現場で活動しています。現場で「使える知識」として再構成し、“読む → 学ぶ → 行動する” までのビジネスプロセスをサポートしています。

このブログでは、そのようなコンサルティングの経験を通じて、役に立ったビジネス書を紹介します。おすすめ書籍の要約や感想だけでなく、実際に成果につながるエッセンス・行動アイデア・思考法を解説します。「この一冊を読んでどう変わるか?」にこだわったレビューを発信しています。

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