レビュー
本書は、ジャーナリストであり、数多くのビジネスパーソンを取材してきた著者・有山徹氏による「働き方の本質」を問う一冊です。タイトルのとおり、「なぜ働くのか」「誰と働くのか」「いつまで働くのか」という3つの根源的な問いを軸に、限られた人生で後悔しないための“20の心得”を紹介しています。
現代社会では、「やりたいことを見つける」「自己実現を追求する」という言葉が美徳のように語られます。しかし、その理想に焦る人ほど、現実とのギャップに苦しんでいるのも事実です。本書は、そうした焦燥感を抱えるすべての働く人に向けて、「やりたいことは探すものではなく、行動の中で育つもの」という現実的な視点を示します。
全体は5章構成。
第1章では、“やりたいこと探し”にとらわれない生き方を提案。
第2章は、自分の経験を言葉にして「働く意味」を見出すプロセス。
第3章では、「能力」ではなく「価値」で自分を再定義することを促します。
第4章は、失敗を恐れずに行動する勇気。
そして第5章では、AIや時代の変化に対応するための「問い続ける力」の重要性を説いています。
全体を通じて、キャリア論というよりも「生き方の哲学」に近い内容であり、読者が自分自身の人生観を再構築するきっかけを与えてくれる一冊です。
要点
- 「やりたいこと」は探すものではなく、行動の中から育てるもの。
- 自分の過去を言語化し、ストーリーとして語れるようにする。
- 「自分定年」を決め、働く時間の有限性を自覚する。
- 能力ではなく「価値提供」に焦点を当てる。
- 他人と比べず「並べて」見ることで、自分の強みが見える。
- 行動しなければ何も始まらない。失敗は成長の必須要素。
- 社会変化に抗うよりも、問い続けながら適応する。
- 「なぜ働くか」を常に問い直すことが、キャリアの羅針盤になる。
感想・考察
印象的なのは、著者が“やりたいこと”という言葉を軽々しく扱わない点です。
多くの自己啓発書は「情熱を持って好きなことを仕事にしよう」と語りますが、有山氏はむしろその逆を提唱します。「好きなことを見つけてから動く」のではなく、「動くうちに好きになれる仕事が見えてくる」。この現実的なアプローチは、多くのビジネスパーソンにとって救いとなる考え方でしょう。
また、第2章の「自分のストーリーを語る」という章も深く印象に残ります。
人はしばしば、自分のキャリアを“偶然”や“環境”のせいにしてしまいますが、著者は「その偶然をどう意味づけるかが自己理解の鍵になる」と語ります。自分の過去を言語化することで、「なぜ自分は今ここにいるのか」という根源的な問いに向き合えるのです。
さらに、著者の語り口には、取材を通じて培われたリアリティがあります。机上の空論ではなく、実際に多くの働く人々と向き合った上での言葉には説得力があり、「自分もまたこの20の心得をひとつずつ見直してみよう」と素直に思える力があります。
おすすめポイント
本書を特におすすめしたいのは、次のような方々です:
- 「やりたいことが分からない」と悩んでいる若手社会人
- キャリアの中盤で、これからの方向性を模索している30〜40代
- 定年後の働き方や「第二のキャリア」を考え始めている方
- 変化の激しい時代に、自分の軸を見失いたくない人
読書後には、「働くとは何か」という問いに対して、自分なりの答えを持ちたくなるはずです。
また、内容は難解ではなく、短い章ごとに“心得”として整理されているため、忙しいビジネスパーソンでも少しずつ読み進められます。
特に印象的なのは、「合理的に進めないほうがいいこともある」という一文。
これは、人生にもキャリアにも“予測不能な余白”が必要だというメッセージです。効率化ばかりが叫ばれる時代において、この考え方は新鮮であり、心に余裕をもたらしてくれます。
評価とまとめ
実用性:現実的で応用しやすい心得が多い★★★★★
読みやすさ:平易な語り口でスラスラ読める★★★★☆
独自性:自己啓発書の常識を逆転させる視点が秀逸★★★★★
共感度:多くの読者が「自分ごと」として考えられる★★★★★
総合評価:人生100年時代のキャリア指針として必読★★★★★
総じて本書は、「働くこと=生きること」というテーマを誠実に掘り下げた、現代的キャリア論の良書です。
やりたいことが見つからないと悩む人も、仕事にマンネリを感じている人も、この一冊を読むことで「働くことの意味」を再定義できるでしょう。


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