レビュー
藤田晋氏といえば、ABEMAやサイバーエージェントなどの数々の事業を成功に導いた日本有数の経営者でありながら、麻雀、競馬、サッカーといった領域でも“勝負強さ”を発揮してきた人物です。本書『勝負眼』は、そんな藤田氏が経営者引退を前にまとめ上げた「勝負どころの判断力」に特化した思考術の集大成です。
本書の最大の特徴は、「押すべきとき」と「引くべきとき」をどう見極めるかという一点に、あらゆる実体験が収束していることです。麻雀の一手から企業買収の決断、Z世代のマネジメントからABEMAの企画会議まで、実に多彩な現場でのエピソードが語られています。
週刊文春の連載『リーチ・ツモ・ドラ1』をベースにしながらも、大幅に加筆された本書は、「連載コラム」の枠を超えた実践型経営哲学書とも言えるでしょう。特に印象的なのは、藤田氏自身がすべての文章を“自分で書いている”という点。経営者にありがちな口述筆記ではなく、自ら言語化した「リアルな思考の流れ」が、本書の誠実さと説得力につながっています。
全8章52トピックは、それぞれ短く読みやすい構成でありながら、経営・リーダーシップ・社交・投資・人材育成など幅広いテーマを網羅しており、読む人によって刺さるポイントが異なる“多面体的”な魅力を持っています。
要点
- 勝負の9割は「押し引き」の見極めで決まる
- 決断には情報よりも「腹を括る勇気」が重要
- 撤退は攻め以上に困難だが不可欠な選択肢
- Z世代には炙り出すようなマネジメントが有効
- リモート環境では信頼構築が課題
- 社交は戦略的に設計することが鍵
- 勝負においては「忍耐と瞬発力」のバランスが重要
- 投資判断は「人を見る力」に尽きる
- 新規企画は異端の意見を歓迎する場が必要
- 組織運営にはシンプルな視点と対応力が求められる
- 社長は「任せて育てる」覚悟を持つべき
感想
読後、最も印象に残ったのは「勝負とは、リスクを取ることではなく、“リスクを引き受ける覚悟”を持てるかどうか」だということです。多くのビジネス書では「成功の法則」や「勝ち方」を提示しますが、本書はむしろ「失敗しないための見極め方」や「撤退の判断」といった静かな胆力にフォーカスしている点が新鮮でした。
Z世代に対して「炙りマネジメント」を行うという発想や、ABEMAでの「トンガリスト会議」の設計、さらには競馬や麻雀の勝負における読みと直感の関係性など、どれもが型にはまらない思考法に裏打ちされており、「勝負強さ」とは単なる運や度胸ではないと実感させられます。
また、AI(ChatGPT)やLINEの情報管理など、現代的なテーマも数多く含まれており、「過去の成功体験」に固執せず、常にアップデートを試みる姿勢にも感銘を受けました。
この本は、「勝ちに行くための戦略論」ではなく、「勝ち残るための感性と思考力」を育てるための書です。特に、次世代のリーダーや起業家、あるいはプレッシャーの中で日々意思決定を行っているミドルマネジメント層にとって、本書は“思考の筋トレ”になるでしょう。
おすすめポイント
🔰 初心者向け経営知識がなくても、1トピックごとに独立して読み進められる構成
🎯 実践的抽象論ではなく「現場エピソード」で構成されており再現性が高い
🧠 インサイト撤退判断や人材マネジメントなど、誰もが悩むテーマにヒントが多い
🔄 汎用性経営・教育・投資・企画など幅広い分野で応用可能な考え方
評価
- コメント読みやすさ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 1話完結型でテンポが良く、忙しい人にも最適
- 実用性⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 明日から使える見極めのヒントが満載
- 思考の深さ⭐️⭐️⭐️⭐️☆ 一見軽妙だが、裏にある視点が鋭い
- 情報の新鮮さ⭐️⭐️⭐️⭐️☆ 最新の話題(ChatGPT、Z世代論)も取り上げている
総合満足度⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 読後、勝負の捉え方が一段深くなる充実の内容
こんな人におすすめ
- 日々、難しい「押すか引くか」の決断に迫られているマネージャー
- 組織運営・人材育成・新規事業開発に携わるリーダー
- 麻雀や競馬など“勝負事”を愛する方
- 抽象論ではなく、現場に即した知恵が欲しいビジネスパーソン


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