【管理会計 初級編 その5】管理会計の最強ツール ABC
ABCとは何か
経営の基本は、正確なコスト計算と無駄なコストの削減です。これを何となくといった経験値で意思決定をすれば、たちまちビジネスは危うくなります。
正確なコスト計算と適切なコストダウンを実施するには、管理会計の最強ツールであるABC(Activity Based Costing:活動基準原価計算)という方法で計算できます。
正確なコストの計算は、ABCによって間接費を各部毎に適切に割り当てることで採算が明確になり、それをもとに今後重視するべき生産や価格判断のための判断が可能となります。
コストダウンについては、コストドライバー(間接費の割り当て基準)を活用しながら、各活動のコストの発生を減らすための経営判断を行い、社内全体のビジネスフローの効率化を念頭に置いて、各活動のコスト削減を実施していくことができます。
ABCは、割り当てが難しい間接費を適切に割り当て、正しい原価を計算するための方法です。
たとえば、PCメーカーは、メモリ、ハードディスク、モニターなどの部品がどれくらい使われているか明確にわかります。
これが直接費です。
一方、間接費とは、それぞれの部品を作るときに現場を照らす電気代や、工場の管理部門の経費などで、PCの生産全体に関連しているコストであっても、どの部品にどれだけのコストがかかっているかわかりません。
これが間接費です。
原価を計算する際、直接費はそのまま集計されますが、間接費の場合は、間接費をいくつかの種類に分けて、その種類毎に間接費をそれぞれの部品に割り当てていきます。
現場作業者の作業時間や機械の作業時間など、適切な配賦基準によって、各部品に割りあてて、間接費を計算します。
ABCでは、このような手順で間接費を計算します。
- 間接費を製品などのアウトプットを生み出すための活動ごとに区分します。
- その活動コストの発生と関係のあるコストドライバーを見つけ出します。
- コストドライバーを使って各製品に配賦して計算します。
たとえばメーカーでは、原材料の保管、移動、加工といった製造ラインに関する活動だけに止まらず、製造ラインの管理、人事等の、いくつもの活動が複合的に行われています。
コストドライバーを決める時、過去の各活動のコストの発生や過去使ったコストドライバーとの関係をもとに最も適切な割り当て基準を見つけ出すことが大切です。
2 ABCの効果
ただし、ABCは万能ではありません。ABCの効果が見込めない企業もあります。
例えば、限定した製品を大量生産する企業、間接費が低く抑えられている企業、成長期の企業、コスト競争がない独占・寡占市場を持つ企業などがそれにあたります。
一方、多品種少量生産の企業、間接費が多い企業、安定期の企業、成熟期の企業、ライバル社が多くコスト競争しなければならない企業は、ABCの効果があります。
多品種少量生産の企業は、製造するにあたって業務量が製品によって変わるため、間接費が発生する業務も相対的に変わります。
もし間接費を大雑把に各製品に割り当てると、コスト計算が不正確になり、間違った経営判断をしてしまいます。
そこで、多品種少量生産の企業は、ABC を使って間接費を正確に割り当てることで、正確なコスト計算を実現します。
総コストに占める間接費が多い企業も、当然、ABCを使って間接費の割り当てを適切に行なうことが大切です。製造ラインの自動化や国際化やロボット導入などによって、直接費となる部品や材料、そして製造現場の人件費が低下傾向にある一方で、製造ラインを正常かつ効率的に動かすためのシステムや保守費などの間接費が多く占める場合、間接費の割り当てを適切に行なうことが大切です。
ライバル企業とコスト競争を強いられる安定期、成熟期の企業は、正確なコスト計算によって厳密な価格設定が必要になります。他企業とのコスト競争に勝つには、正確なコスト計算によるコストダウンが求められす。
そのためにはABCを積極的に活用することが必要です。
3 ABCの課題
正確なコスト計算やコスト削減を実現可能とするABCですが、活動設定のコスト、コストドライバーの設定、社内の理解、結果の活用などが課題として挙げられます。
ABCの導入には、製品などのアウトプットを生み出すための活動範囲を設定しなければなりません。活動範囲の設定は、社内の業務の状況をもとに、細く、丁寧に設定するため、時間や労力などの手間がかかります。
また、コストドライバーを使って間接費を割り振り計算する時、統計的方法を使って各活動の間接費と関係のあるドライバーを選択しなければなりません。そのためにはコストドライバーを導き出すための様々な数値データが入手可能担っていなければなりません。
ABCを導入すると、通常の原価計算でコスト計算をした場合と比較して、標準的な製品であれば間接費の割賦は小さいためコストが安くなり、複雑な製品であれば間接費の割賦は大きいため、コストは高くなります。
ABCによってコストが高く採算が取れない製品を担当者たちの評価が低く査定されてしまう可能性を回避するために、ABC導入には否定的になります。
こうした状態にならないように、ABCの結果を人事評価に反映させるのではなく、正確なコスト把握によるコスト削減の実現によって、企業の利益を上げるために利用するといった社内の理解が必要になります。
また標準的製品が複雑製品より利益が高いことがABCによって明らかになれば、利益が多く出る標準的製品を重視し、複雑製品は縮小すべきという経営判断をしてしまいます。
しかしどちらの製品を重視するかは、市場での競合企業の出方や今後の価格設定等を含めた総合判断が必要です。決してABCの結果だけが経営判断の根拠にはならないということも念頭に置いておきましょう。
さらには、ABCによるコスト削減が可能とわかると、人件費や製造等の過程での余力が明らかになります。その余力を実際に削減するか、他の効率の良い結果を出す活動に活用しなければ、本当の意味でのコスト削減は実現できません。
4 ABCの変化形 ABM
ABCの情報を活用しながら顧客価値と利益の改善のために原価を管理する方法が、ABM(Activity Based Management)です。
例えば、ABMではこんなことができます。
- 企業の競争優位性を持続させるために顧客目線で企業活動を見直す。
- 客が必要としない付加価値や付加価値がない活動を止める。
- 効率的な業務活動のみを実施できるように抜本的な改革と原価改善をする。
具体的には
- 活動実行に必要な時間と努力の削減
- 不要活動の削減
- 低コスト活動の選択
- 活動の共通化
- 未使用資源の再利用と削減
顧客に見える部分や機能は徹底して顧客のニーズを実現し、顧客が求めないニーズの部分や機能などは徹底して削除する方向性も選択肢の1つです。
例えば、車体のベース(プラットフォーム)は同じフレームプラットフォームを使いうことで、見えない部分のコストを抑え、デザインや内装、機能などは車種やオプションによって顧客のニーズに応える方法があります。
このように、顧客の要望に応える部分とそうでない部分を区分し、対応しない部分は徹底して標準化し、効率化する中でコスト削減に徹するを可能にするのが、ABMです。
6 まとめ
- ABCを使う目的は、正確なコスト計算と適切なコストダウンのためです。
- ABCは、間接費を、各製品に割りあて、正確なコスト計算と削減をします。
- ABCは、間接費をアクティビティごとに区分し、次にそれぞれのアクティビティのコストと関係あるコストドライバーを定め、それを用いて割りあてて計算します。
- 品種が少量の生産企業、コストに占める間接費が多い企業、コスト競争を強いられる安定・成長期の企業は、ABCの効果が高くなります。
- ABCは、アクティビティの設定やコストドライバーの集計に時間を要する、評価に結びつけるには社内での目的共有が必要、効率化を実現しなければABCの成果は現れにくい等の認識も必要です。
- ABM は、ABCをベースに顧客に対する付加価値の有無という視点から業務を見直し、原価改善をします。