【管理会計 初級編 その1】管理会計からみた固定費と変動費の考え方

管理会計【初級】

1 管理会計を使った意思決定

ビジネスリーダーが意思決定する時に必要なのは、数字に基づいた根拠です。

どのように意思決定して経営するか、その根拠は管理会計を使って求めます。
管理会計は、業績管理と意思決定のための根拠を導き出すための会計です。

管理会計では、どの部門が利益を多く出しているか把握し、その後の経営戦略を策定します。

例えば、経営戦略を立てる時、コストに注目したとしましょう。
コストは、変動費と固定費の2つに分けることができます。
管理会計を使って変動費と固定費のコスト構造をしっかりと把握すれば、損益分岐点がわかり、経営を取り巻く環境によって経営戦略を変えることができます。

2 変動費と固定費

変動費か固定費の区別は、売上や生産量に応じて変化するかどうかで判断します。

・変動費
売上が増えるといっしょに上がる物流コスト、生産量が増えるといっしょに上がる部品代や原材料費など

・固定費
売上が増えても変化しない人件費などの社内経費、生産量が増えても変化しない工場の固定資産税など


費用を変動費と固定費を分ける方法】
勘定科目法と最小二乗法の二つがあります。
※今は「変動費と固定費を分ける方法はこの2つがある」という程度の理解で大丈夫です。

(1)勘定科目法
勘定科目とは、簿記の仕訳や財務諸表に用いる表示金額の内容を示す名称のことです。勘定項目の一覧は決まっています。
(もしどちらに振り分けていいかわからない時は、中小企業庁の「中小企業の原価指標」などを参照して分類できます。)
売上や生産量の変化と伴に変化するかどうかで変動費と固定費を、勘定科目別に分けます。
勘定科目法は、変動費と固定費の勘定科目の項目が明確のため、経費削減しやすくなります。

(2)最小二乗法
過去の売上とコストから、固定費と変動費率を推定します。
式で表すと、以下の通りになります。

y=ax+b

 y(費用)
 a(変動費率)
 x(売上高)
 b(固定費)

最小二乗法では、経費削減しずらいデメリットがあります。

※ここでは、「固定費と変動費の分け方が2つある」といった程度の理解で大丈夫です。後ほど、基礎問題をしながら具体的な理解を深めます。

経費削減する場合、最小二乗法で全体像を確認しながら、勘定項目法を使って具体的な内訳から削減する科目を検討していくのが良いでしょう。

3 損益分岐点分析

変動費と固定費がわかると、損益分岐点分析(Break Even Point Analysis)ができます。

損益分岐点分析の手順は以下の通りです。

①損益分岐点売上高(利益がゼロとなる売上高)を計算します。
②損益分岐点売上高をベースに、目標利益を達成するための売上高やその必要なコストを求めます。

損益分岐点を求めるために必要な数字は、3つだけです。
・売上高
・変動費
・固定費


損益分岐点売上高を計算するには、最初に限界利益を求め、次に限界利益率を求めます。

(1)限界利益
売上高がX円増える時、どれだけ利益が増えるかを表します。
売上高から変動費を指し引いて求めます。

限界利益 = 売上高 – 変動費


(a)短期的な意思決定
2つの事業(製品)から1つを選ぶとき、利益が大きい事業を選びます。
費用については、固定費はどちらの事業を選んでも同じなので、考慮すべきは、売上と連動して変動する変動費です。
故に、限界利益の大きい方を選択します。

(b)中長期的な意思決定
事業を取り巻く経営環境を考慮していくことが大切です。
安定した市場と不安定な市場で意思決定は異なります。

安定した市場の場合〉
大きな変化がなく売上が計画的に増加する環境であれば、変動費を下げ、固定費を上げます。
その理由は、固定費が大きいほうが、売上が増えたときに変動費を押さえることができ、利益が増えるからです。
固定費が高い事業は、売上増が利益増に直結しますので、何よりも売上増を最優先します。

固定費を上げるには、アウトソーシングなどの変動費を下げ、設備費や人件費を上げます。
ただ、市場が不安定になった時、すぐに固定費を削減できないので注意が必要です。

固定費が高いと、企業が抱えるリスクが高くなります。
固定費増の場合、売上が大きく下げた時、利益も大きく下がります。設備保有や正社員の雇用で、自ら仕組みや体制を柔軟に変えることができないリスクが高まります。

不安定な市場の場合
売上が減少する不安定な環境であれば、変動費を上げ、固定費を下げます。
変動費が高いと、売上が減ったとき削減する費用が多くなるため、一定利益を確保できます。

固定費の削減は、売上高が減っても赤字にならないので重要視されます。
コストの削減は、原材料や仕入れ代の変動費のほうがしやすく、素早く対応できます。変動費は売上の低下とともに減るコストなので、固定費よりは減らす負担はありません。
固定費を変動費に変える、例えば業務のアウトソーシング化は対策の一つです。
ただしアウトソーシングには、技術が流出したりや競争優位性が失われるリスクがあります。

保有設備や正社員の給与などの固定費は、組合等の反発があり、すぐに削減することは困難ですが、それでも費用削減が必要な場合、固定費が高い企業は大きなコストカットができます。

(2)限界利益率
限界利益を売上高で割ってを求めます。

限界利益率 =限界利益÷売上高

利益を上げるためには、売上を増やし、変動費を削減し限界利益を高めることが必要です。売上を増やしても変動費も上がれば利益が増えません。固定費の削減は、売上が変わっても変化しない費用なので利益向上のインパクトはありません。限界利益率の向上を常に念頭におくことはとても大切です。

(3)損益分岐点売上高
固定費を限界利益率で割って求めます。

損益分岐点売上高 =固定費÷限界利益率


(4)目標利益に必要な目標売上高

固定費と目標利益額を足した額を限界利益率で割って求めます。

目標利益に必要な目標売上高=(固定費+目標利益)÷限界利益率

売上高が低くても利益を確保し赤字を回避するには、損益分岐点売上高を少なくします。

(5)損益分岐点比率
損益分岐点売上高が今の売上高に対してどの程度か知るには、損益分岐点比率を確認します。

損益分岐点比率=損益分岐点売上高÷現在の売上高

売上高が低下しても赤字にならないためには、損益分岐点比率が低いほうが無難です。
例えば、損益分岐点比率が80%の時は、売上が20%落ちても赤字になりません。もし損益分岐点比率が80%から60%に落ちた時は、売上は40%落ちても赤字になりません。

4 損益分岐点分析を使った意志決定

(1)損益分岐点売上高が下がる時
固定費を削減するか、限界利益率を高めなければなりません。
これは「固定費÷限界利益率 」の公式からわかります。

(2)売上高を上げることが難しい時
損益分岐点売上高を下げることが必要です。
これは「損益分岐点売上高÷現在の売上高」の公式からわかります。

(3)限界利益率を高めたい時
価格を上げるか、変動費を削減しなければなりません。
通常、価格を上げるのは難しいので、変動費を削減することが必要になります。

このようにビジネスの状況に応じて、固定費か変動費の削減が大切になります。

5 学びのポイント

・変動費とは、売上や生産量に応じて変化する費用です。
・固定費は売り上げや生産量が変わっても変化しない費用です。
・変動費と固定費を区分する方法は、勘定科目法と最小二乗法があります。
・具体的なコスト削減には、勘定科目法の方が使いやすいです。
・環境が大きく変わる時は固定費を下げます。
・環境に変化がない時は、固定費を上げます。
・固定費が高い事業は、販売量を増資し、固定費を下げると、利益が増えます。
・変動費が高い事業は、販売量を増し、変動費を減らすと、利益が増えます。
・固定費が高い事業は、売上が大きく下がった時はリスクが高くなります。
・損益分岐点比率を下げるためには、損益分岐点売上高を下げます。
・損益分岐点売上高を下げるためには、固定費を下げます。
・限界利益率を下げるためには、変動費を下げます。