【管理会計 初級編 その7】管理会計からみた財務目標の設定方法
1 財務目標の設定
経営トップは、財務目標を設定し、組織をその目標達成のために動かしていかなければなりません。しかし案外、数字に弱い経営トップも多く、そういう経営トップはむしろ直観的に判断して、経験や感覚で意思決定した結果上手くいっている場合が多いようです。逆に言えば、それほど直観と経験から意思決定ができるならば、そこに数的根拠に基づいた財務目標を設定・実現できれば鬼に金棒です。
ではどのように財務目標を設定すればいいのでしょうか。
管理会計のスペシャリストは、企業の置かれた状況次第で財務目標を変えていきます。
例えばこんな感じです。
財務的に厳しい状態なら、財務的な安全性や利益の目標を設定します。
財務的に安定していれば、利益率に重点を置いた目標設定になります。
株主の投資効率を高めるためであれば、ROE(自己資本利益率)に焦点を当てて、株主が期待している儲け率である株主資本コストを目標基準にします。
資本コストのWACCを上回る儲けを確保するためであれば、ROIC(投下資本利益率)に焦点を当てて、資金提供者が期待している儲け率であるWACCを目標基準にします。
そのほか、以下のようなターゲットに焦点を当てた目標数値が考えられます。
- 売上高、営業利益:企業成長の規模を拡大するため
- ROA(総資産利益率):事業の投資効率を高めるため
- 売上高営業利益率:ROE ROA ROICを高めるため
- CCC(キャッシュコンバージョンサイクル):売上債権や棚卸資産などの運転資本を圧縮し資産効率を高めるため
- Debt Equity Ratio:財務的安定を高めるため
- DEBT営業キャッシュフロー倍率:借入金をキャッシュフローで支払っても余裕のある財務状態にするため
通常は、上記のいくつかの目標を組み合わせます。
目標設定のレベルは、プッシュしないと達成できないぐらいのレベルがよいでしょう。
2 全体目標からの部署目標へ
会社の財務目標を設定した後、、それを各部署が到達すべき目標にブレイクダウンしていくことが大切です。そうしなければ、どの部署も会社目標は他人ごとになって、会社全体の目標が達成できなくなるからです。
会社の成長規模の拡大を目指す時、具体的な売上高や営業利益がどれくらい必要なのかを各部署に丁寧に説明した後、、その目標を達成するためには各部署は何を具体的にしなければならないのかといったタスクと数値目標にブレイクダウンします。
例えば、財務の安全性については、各部署への展開は難しく会社全体としての目標にしかなりませんが、営業利益やCCCは、各部署が実践できる財務目標になります。
ROEの目標設定には注意が必要です。ROEを目標にした場合、各部門ごとに自己資本と当期純利益を計算しなければなりませんし、ROEを向上させるには当期純利益を増加させ、自己資本を削減しなければなりません。しかしこれらの数値を各部門が実情を把握して正しく計算することは非現実的で、各部署の権限で実現することは不可能です。
そこでROEの代わりに、ROAを各部門ごとに目標を立てることをおススメします。ROAであればROEとも関連性はありますし、各部署ごとの目標として定めることも可能です。営業利益の拡大や資産圧縮のための、売掛金の回収の早期化、在庫の圧縮、コスト削減など、各部署でもできる具体的な目標を立てることが可能です。
さらに言えば、「ROE○○%」「ROA○○%」という財務目標よりも「営業利益率○○%」「CCCを何日までに削減」のような具体的な目標設定が大事になります。財務目標を立てた後に、各部署で共有され、その目標に向かって各部署がそれぞれ何をすべきかを自覚したうえで会社全体が動かなければ意味がありません。そのためには、目標達成のための研修や経営トップからの定期的なメッセージ発信が大切になります。
3 財務目標の最近のトレンド
最近、多くの企業で使われている財務目標の一つが、ROIC Return On Invested Capital、投下資本利益率です。ROICとは、借りた資金(DEBT)と株主からの資金(EQUITY)に対する儲け率のことです。
ここでいう儲けとはNOPAT Net Opereatig Profit After Taxes(税引後営業利益)のことです。
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ROIC=NOPAT÷(Debt+Equity)
社内に資本コストの意識を広め、社外にも業績が資金提供者の期待以上かどうかといった資本コスト重視をアピールできるという点から、ROICはよい指標と言えます。これに営業利益率やCCCも一緒に目標値にするとより具体的な財務目標になるでしょう。
4 KPI
KPI(key performance Indicator、重要業績評価指標)は、最近、多くの企業で業績評価の指標として用いられるよになってきました。KPIは売上高、営業利益、ROE等といった財務目標を達成するためのプロセスを見える化する指標です。
営業の場合、顧客訪問数、見積もり依頼数、受注率、新規顧客数、リピート率、顧客あたりの売上高などの数値がKPIになります。
製造の場合は、設備稼働率、一人当たりの生産高、不良品数、欠品数、事故数、製造ラインのストップ回数など、コスト削減、品質確保、出荷納品数の目標が明確になる指標になります。
【BSC】
Blanced Score Card バランス・スコアカードは、企業の理念実現のために、以下の4つに分けて目標を設定するものです。
顧客
社内ビジネスプロセス
組織内での学習と成長
この4つは相互に関係しています。組織内で学習によって従業員のレベルが上がれば、内部のビジネスプロセスが改善されて、顧客の視点からビジネスの質が向上します。その結果、売れ行きもよくなり財務状況が改善されます。
バランスカードと言われる所以は、この4つがバランスを保つことが大切だからです。
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<財務>
ROE
ROA
売上高利益率
キャッシュフロー
成長率
マーケットシェアの拡大
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<社内ビジネスプロセス>
不良品率
納期遵守率
不良品率
生産性
クレーム処理時間
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<顧客>
満足度
クレーム数
顧客からみた会社ランキング
新製品の売上高
リピート率
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<学習と成長>
新企画の製品化までの時間
社内コンペ数
離職率
研修数
従業員満足度
【EVA】
EVA Economic Value Added 付加価値は、企業の儲けが資金提供者が期待している儲けの水準をどれだけ上回っているかを示す業績評価の指数です。
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EVA=NOPAT-(Debt+Equity)xWACC
NOPATは Not Operating After Taxes、税引後営業利益、(Debt+Equity)資金の合計、資金提供者が期待している儲け率のWACCをかけたものです。EVAは企業の儲けから資金提供者が期待している儲けを引いて、その期待意所に儲けがあるかを評価した指標です。
EVAを高めるためには、NOPATを高める、資金の合計を小さくする、WACCを低下させるの3つがあります。
EVAを向上させるにあたって、NOPATのためには営業利益の向上や税金優遇を実行し、資金合計のためには資産を圧縮し、WACCのために適度な借入金の活用したり、これらをバランスよく行っていきます。
EVAはDebtとEquityの合計に対する儲け率であるROICと密接に関係しています。EVAとROICの式を分解すると、このように関係性が表されます。
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EVA=(Debt+Equity)x(ROIC-WACC)
EVAはROICがWACCを上回るとき、(Debt+Equity)が大きくなればなるほど、増加します。
ROICがWACCを下回るときは、(Debt+Equity)を小さくすれば、マイナスを小さくできます。
つまり、ROICがWACCを上回っているかどうかで資金投入額を調整します。例えばROICがWACCを上回れば、投入資金を増やし、ROICがWACCを下回れば、投入資金を減らします。
5 まとめ
- 売上、コストの削減、利益、投資効率など、それぞれどの部署や事業がそれらに当たるか検討し、割り当てることが大切です。
- 資金提供者からの資金に対してどれくらい儲けを出しているか、投資効率を計算するのがROICです。資金提供者が期待する儲け率を意味するWACCとも比較できて、資本コスト重視を社内外にアピールするにはよい財務目標です。
- 財務状態の安全性は会社全体の目標、事業の成長や投資効率や利益率は事業ごとの目標とするのがよいでしょう。
- 収入に関する財務目標は、売上目標 営業部門 売上高、成長率があります。
- 費用に関する財務目標は、コスト効率化と削減 コストの削減率があります。
- 利益に関する財務目標は、営業利益率があります。
- 投資に関する財務目標は、ROA、CCCがあります。
- KPIは企業の業績目標達成度合いを評価するために重要な指標です。
- BSCは理念を実現するために、財務、顧客、内部ビジネスプロセス、学習と成長の4つの視点から経営管理をする仕組みです。
- EVAは企業の儲けが資金提供者が期待している儲けを上回っているかどうか、業績を評価する指標です。