『君は戦略を立てることができるか』(音部大輔 著)

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レビュー

「戦略とは、目的と資源の関係をデザインすること」。この一文が本書『君は戦略を立てることができるか』のエッセンスを端的に表しています。

著者・音部大輔氏は、P&G、ユニリーバ、資生堂などグローバル企業でマーケティング戦略の現場を牽引してきた実績を持ち、現在は経営・ブランド戦略のコンサルタントとして活躍しています。本書は、そんな著者が実際に行っている人気講義「戦略をつくる4時間」をベースに、誰もが戦略的思考を身につけられるよう丁寧に再構成された一冊です。

戦略というと難解で抽象的なイメージがつきものですが、本書はそれを“道具”として明確に定義し、実際に「つくる」手順を6ステップで解説しています。目的を明確にすることから始まり、再解釈、資源の洗い出し、資源優勢の確立、文章化、組織展開まで、一連のプロセスが段階的に説明されており、初学者でも取り組みやすい構成になっています。

加えて、戦略が現場でどう活かされるか、逆にどう失敗しやすいかを説明した第3章は、戦略を「絵に描いた餅」で終わらせないための重要な補足です。例えば「選択と集中」の重要性、「ダブルパンチ症候群」や「全砲門一斉解放」といったありがちな失敗例が、印象的なネーミングとともに紹介されています。

最終章では、戦略思考は一度学んで終わりではなく、失敗と振り返りを通じて「経験値」として積み上がるスキルであるという視点が提示されます。これは、戦略を現場で活かす実務者だけでなく、自身のキャリアをデザインするすべての人にも通じる普遍的なメッセージです。

要点

  • 戦略とは:「目的と資源の関係を設計する技術」
  • 目的の明確化が出発点(SMACで定義)
  • 目的の再解釈で具体化し、行動指針へ落とし込む
  • 資源を探索し、優勢を築くために一点集中
  • 戦略は書いて初めて共有・運用可能になる
  • 戦略と実行はセット:理論だけでも現場だけでも不十分
  • 選択と集中」「やらないことを決める」ことがカギ
  • 戦略思考は経験と反復で身につく“身体スキル”
  • ナレッジを共有し、組織全体の戦略経験値を上げる

感想・評価(約80

本書を読んで最も印象に残ったのは、「戦略は知識ではなくスキルであり、反復で鍛える思考筋肉である」という点です。戦略というと経営層やマーケティング担当者だけが扱う特別な領域と思われがちですが、音部氏はそれを、誰もが日常的に使うべき“思考の道具”として再定義しています。

特に第2章の6ステップは、どれも非常に実用的です。目的をSMACで定義し、それを再解釈して具体化し、資源を棚卸しし、集中すべきポイントを選び、書き起こし、組織に展開する。これはマーケティングだけでなく、新規事業立案、プロジェクトマネジメント、チーム運営など、あらゆる場面に応用可能です。

さらに「戦略か、実行か」「優秀より強い」「練習の仕方」といったキーワードが示す通り、理論と実務を往復する姿勢が貫かれており、単なる啓発本では終わらない“現場力”を感じました。

難点を挙げるとすれば、本質的な内容ゆえに「一度読んだだけでは腹落ちしづらい部分もある」という点です。とはいえ、それはむしろ本書が再読に耐える良書である証でもあります。

現代のビジネスパーソンにとって「戦略思考」は必須のスキルです。そしてそれは、「何をやるか」よりも「何をやらないか」を決める力でもあります。本書は、その思考を可能にする「フレーム」と「筋力」を与えてくれる稀有な一冊でした。

こんな人におすすめ

  • 戦略に苦手意識がある若手ビジネスパーソン
  • マネージャーとしてチームを戦略的に動かしたい中間管理職
  • 起業家、マーケター、新規事業担当者
  • 「実行だけで終わっている」と感じる現場リーダー
  • 思考の道具を“自分の言葉”で持ちたいすべての人

総合評価(5点満点)

項目評価
読みやすさ★★★★☆(4.5)
実用性★★★★★(5.0)
汎用性★★★★★(5.0)
戦略理解の深さ★★★★★(5.0)
コスパ★★★★☆(4.5)

📌 総合評価:4.8 / 5.0

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この記事を書いた人

私は、経営コンサルタントとして、ビジネスの実践現場で活動しています。現場で「使える知識」として再構成し、“読む → 学ぶ → 行動する” までのビジネスプロセスをサポートしています。

このブログでは、そのようなコンサルティングの経験を通じて、役に立ったビジネス書を紹介します。おすすめ書籍の要約や感想だけでなく、実際に成果につながるエッセンス・行動アイデア・思考法を解説します。「この一冊を読んでどう変わるか?」にこだわったレビューを発信しています。

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