レビュー
資産形成の「戦略」を見直す、新時代のマネー指南書である『THE WEALTH LADDER 富の階段』は、金融ブログ「Of Dollars And Data」で知られる米国のデータサイエンティスト、ニック・マジューリによる、極めて実践的かつ俯瞰的な資産形成の「戦略書」です。著者は前作『JUST KEEP BUYING』で、“投資を続けることの重要性”を説きましたが、本書ではさらに一歩引いて、「自分の現在の資産レベルに合った行動とは何か?」という問いを軸に展開されます。
本書の最大の特徴は、「富の階段(Wealth Ladder)」と呼ばれる6段階の資産レベル別フレームワークを軸に、個人のステージに応じた最適な戦略を提示している点です。たとえば、資産がほとんどないレベル1では支出管理と心理的安定が重要ですが、レベル3(資産1,000万円〜1億円)では投資の継続性とリスクマネジメントが中心となります。そして、レベル5〜6ともなると、事業拡大や資産防衛の専門的な知見が必要になります。
また、ただの「お金の増やし方」に留まらず、「お金で幸せは買えるのか?」「本当の豊かさとは何か?」という本質的な問いにも踏み込んでいます。著者は「4つの富」(社会的、精神的、身体的、時間的)という非金融的視点も提示し、お金はあくまで“手段”であることを忘れてはいけないと説きます。
読みやすく構成された章立てと、実際のデータに裏打ちされた洞察により、本書は投資初心者から上級者まで、誰にとっても「今、自分が何をすべきか」が明確になる一冊です。
要点
- 本書は「資産レベル別に最適な戦略を示す」実践的なマネー戦略書。
- 6段階の「富の階段」を使い、自分の資産状況に合った行動がわかる。
- レベル1〜2では支出管理とスキル投資(人的資本)が中心。
- レベル3以降は資産運用や投資による複利の活用が主戦略となる。
- レベル4〜5では起業・仕組み化による加速度的な資産形成が求められる。
- レベル6では資産防衛(法的保護・分散・相続対策)が中心課題。
- 幸福はお金だけで決まらない。「4つの富」のバランスが重要。
- お金に対する「正しい考え方」と「習慣」の確立こそが成功への鍵。
- 成功は一夜にして訪れず、データに基づいた持続的な成長が必要。
- 複雑な現実を、シンプルなフレームで捉える知恵を与えてくれる一冊。

感想── 富は“登るもの”ではなく、“理解して進むもの”だった
『富の階段』を読み進めるうちに感じたのは、「画一的なお金の増やし方」ではなく、「今の自分に最適な次の一手を知ることの重要性」でした。本書は、ありがちな「全員に同じ方法を勧める投資本」とは異なり、各人の現在地を尊重しながら、それに合った具体的な戦略を教えてくれます。
たとえば、私自身が属するであろうレベル2〜3(資産が数百万円から数千万円規模)では、投資以前にキャッシュフローの改善や、スキル向上による年収アップが重要とされていました。逆にレベル5〜6の富裕層に向けては、訴訟リスクや相続問題といった「守りの戦略」にシフトしており、「富とは単なる数字ではなく、段階に応じてその意味が変化する」ということがよく理解できました。
また、特に印象的だったのは、「幸福度とお金の関係」に対する筆者の冷静なスタンスです。一定の収入や資産は確かに人生を快適にしますが、それ以上は「社会的つながり」や「自由な時間」のほうが価値がある。つまり、金融資産はあくまで「人生の質を高めるツール」であり、最終目的ではないのです。
読みやすさの面でも、本書は非常にスムーズです。専門用語も丁寧に解説されており、英語原著にありがちな「抽象的でわかりづらい箇所」も、翻訳者の児島修氏の手により、日本語として自然に読み進められる構成になっています。
本書を通して得られるのは、ただの投資テクニックではなく、「生涯にわたって使えるお金の考え方」です。戦略とは「何をしないかを決めること」とも言われますが、自分の資産ステージを認識し、不要な情報に惑わされず、的確に一歩を踏み出すことの大切さを再認識させられました。
こんな人におすすめ
- 投資初心者だが「どこから始めればいいか」がわからない人
- 「オルカン投資」や「FIRE」などに飽き足らず、体系的な資産形成を学びたい人
- 収入はあるが資産が増えず、行動の指針がほしい中堅ビジネスパーソン
- 起業家・経営者で次の資産戦略を検討している人
- お金だけでなく、「豊かに生きるとは何か」に興味がある人
総合評価
| 項目 | 評価 |
|---|---|
| 読みやすさ | ★★★★★ |
| 実用性 | ★★★★★ |
| 独自性 | ★★★★☆ |
| 思考の深さ | ★★★★★ |
| 初心者向け度 | ★★★★☆ |
| 総合おすすめ度 | ★★★★★ |


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