書籍紹介
本書は、87歳にして今なお現役でトレードを続ける投資家・藤本茂氏による、人生と相場に関する実践哲学である。タイトルに「資産18億円」とあるが、単なる成功者の自慢話ではない。むしろ本書の核は、「68年間マーケットと向き合って得た“生き方の知恵”」にある。
著者は19歳で投資を始め、戦後の混乱、バブル崩壊、リーマンショックといった激動の相場をすべて経験してきた。彼が語るのは、市場のテクニックではなく「人間の心理と習慣」をどう制御するかという視点である。相場は常に欲望と恐怖で動く——この前提に立ち、藤本氏は「感情を排し、ルールで動く」ことの重要性を説く。
なかでも印象的なのが、「1:2:6のルール」。これは投資額を3段階に分けて段階的に増減する手法で、無理のないリスクコントロールを実現する。さらに、「下がったら買う、上がったら売る」というシンプルな原則を徹底し、ブレない姿勢を維持することが成功の要とされる。
本書の後半では、トレードを「究極の脳トレ」と位置づけている点もユニークだ。株式投資を「お金のため」だけでなく、「思考力・判断力を鍛える知的活動」として捉えており、まさに“生涯現役”を体現する内容だ。
投資初心者からシニア層まで、**「年齢を理由に挑戦をやめるな」**という著者のメッセージは、相場を超えて人生訓としても響く。
要点リスト
- 投資歴68年、87歳の現役トレーダーによる経験知の書。
- 市場は変化しても「人の心理」は不変。そこを読むことが核心。
- 銘柄選定はスピードと習慣、感情を排した「ルール化」が重要。
- 「1:2:6」の資金配分法=小さく試し、大きく伸ばす。
- 「下がったら買う、上がったら売る」を機械的に実践。
- 損失を恐れず、分析を継続する姿勢が勝利を支える。
- デイトレは「究極の脳トレ」。続けることで若さと集中力を保つ。
- 投資=生き方の訓練。挑戦を続けることが成功の本質。
感想
読み進めるうちにまず感じるのは、藤本氏の驚くべき「軽やかさ」である。87歳という年齢にもかかわらず、彼の思考は柔軟で、行動は合理的。固定観念や過去の成功体験に縛られない姿勢が、一貫して全ページに流れている。たとえば、銘柄を「愛着で選ばない」という言葉。多くの投資家が感情移入して判断を誤る中、藤本氏は淡々と“数字とルール”で取引を行う。そこには、68年の経験で培われた「市場との正しい距離感」がある。
また、「続けることの力」を体現している点も本書の魅力だ。株式投資を通して得たのは資産よりも「習慣の価値」だと語る部分は、投資以外の分野にも応用できる普遍的な教えだろう。藤本氏にとって相場は人生の一部であり、健康維持・思考力強化・生活リズムの中心でもある。トレードを「日課」として積み重ねる姿勢は、まるで毎日の筋トレのような規律と継続力を感じさせる。
一方で、初心者がいきなり真似するには難易度の高い部分もある。彼のトレードは膨大な経験と勘に基づくものであり、全てをそのまま再現することは現実的ではない。しかし、著者の真意は“やり方”ではなく“姿勢”にある。つまり「自分のルールを作り、それを守り抜くこと」が最も大切なのだ。
本書のもう一つの価値は、「老い」への新しい視点を提示していることだ。多くの人が加齢とともにリスクを避けるようになるが、藤本氏はむしろ「リスクを管理して挑戦を続ける」ことを選んでいる。その姿勢は、資産運用だけでなく、人生全体をどう設計するかというテーマにも通じる。彼にとってトレードとは“脳の筋トレ”であり、“生き方の訓練”なのだ。
総じて、本書は「お金の教科書」というよりも「生き方の参考書」である。テクニカル指標や銘柄分析よりも、“自分を律する力”こそ最大の投資スキルだというメッセージが心に残る。
総合評価
| 評価項目 | 内容 | 評価 |
|---|---|---|
| 実用性 | シンプルな投資哲学と再現可能なルール | ⭐️⭐️⭐️⭐️ |
| 読みやすさ | 平易な言葉と具体例で構成 | ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ |
| 独自性 | 「87歳・現役」のリアリティと人生哲学 | ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ |
| 感動度 | 年齢を超えた挑戦と規律への尊敬 | ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ |
| 総合評価 | 継続と自己管理を教える“人生の投資書” | ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ |
読者へのおすすめ
- 投資初心者〜中級者で、「ルール化」「継続の大切さ」を学びたい人
- 定年後の生きがいや知的挑戦を探している人
- お金よりも「思考法」「心のあり方」を磨きたい人
この本は、「老いてなお挑戦する」という人生のロールモデルを提示してくれます。
投資を超え、「自分のリズムで生きる」という藤本流の哲学に共感する人は多いでしょう。


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