レビュー
『敗者のゲーム[原著第8版]』は、投資の世界で名著として広く知られるチャールズ・エリスの代表作です。初版発行から50年以上経っても色褪せることなく、世界中の投資家に読み継がれているこの本は、特に「インデックス投資」の有効性と「投資における自制心の重要性」を論理的かつ実践的に説いた点で評価されています。
本書のタイトルにある「敗者のゲーム」とは、プロの世界で成功することが難しい投資環境を指し、運用者の能力よりもミスの回避が成否を分けるゲームであることを意味します。つまり、市場に勝つ(=アクティブに儲ける)という発想よりも、「いかにして市場に負けないか」に焦点を当てることが重要だと説かれているのです。
第8版では、インデックスファンドや確定拠出年金といった制度・商品に加え、行動経済学やコロナショック後の市場動向も踏まえてアップデートされています。とりわけ「時間の力(複利)」や「手数料の影響」といった、長期投資を成功させるための基礎知識と心構えが強調されており、NISAやiDeCoなどを活用した投資を始めたいと考える日本の読者にも非常に参考になる内容です。
著者は「勝とうとする努力が逆に失敗を招く」投資の世界において、「淡々と、ルールに従って長く投資を続けること」が最善の戦略だと繰り返し述べています。読みやすい文体ながら、具体例やデータも豊富で、初心者から中級者まで幅広い読者層に適した投資入門書と言えるでしょう。
要点
- 「敗者のゲーム」とは、勝つことより「負けない」ことを重視する投資戦略。
- アクティブ運用は高コストで成功確率が低く、インデックス投資が合理的。
- 市場平均を超えることは難しく、過去の成績は将来の成果を保証しない。
- 手数料は長期的なリターンを大きく左右する重要要素。
- 感情に左右されず、計画とルールを守る「自制」が必要。
- 行動経済学的に、人は非合理な判断をしがち。時間を味方につけることが重要。
- 短期的な市場の予測は不可能。長期・分散・継続が基本戦略。
- 投資は人生設計の一部であり、目的に応じた資産配分が不可欠。
- 確定拠出年金やインデックスファンドなど「仕組み化された投資」が成功の鍵。
- 複利の効果は時間とともに拡大し、投資の最大の味方となる。

読後の感想
この本を通じて感じたのは、「投資とは、自分自身との戦いである」というメッセージの強さです。著者は一貫して「感情を排し、規律を守ること」の重要性を説きます。これは単なる金融技術の話ではなく、人間の心理に深く根差した話であり、まさに自己啓発書の側面も感じさせる構成になっています。
特に印象的だったのは、「予測しない」「市場を操作しようとしない」「時間を味方につける」というアプローチです。これらは一見地味で退屈にも思えますが、冷静に考えれば最も再現性が高く、現実的な投資戦略です。短期で儲けたいという誘惑に駆られる人ほど、この本に書かれている「地道さ」が身に沁みることでしょう。
また、著者は「複雑さよりもシンプルさを選べ」とも述べています。これは投資信託の選び方や資産配分、手数料の見極めといった実務的な判断にも活きてくる言葉です。多くの個人投資家が複雑な情報に惑わされ、判断を誤る中、本書は「本質に立ち返れ」と語りかけてきます。
ただし、すでにインデックス投資の基本を知っている中・上級者にはやや冗長に感じる部分もあるかもしれません。とはいえ、原著第8版ではコロナ後の市場や最新のデータが加わり、実用性と説得力はより増しています。
「投資で勝つ」ことにこだわるのではなく、「資産形成を通して安定した人生を設計する」という視点を持ちたい人にとって、本書はまさに”知恵の武器”になる一冊です。
この本がおすすめな人】
- 投資を始めたいが、何から手をつけていいかわからない初心者
- アクティブ投資で失敗し、堅実な方法を探している人
- NISA/iDeCoなどの制度を活用した資産形成を検討中の方
- 感情に左右されずに「仕組み化」した投資がしたい人
- インデックス投資の理論的背景を学びたい中級者
総合評価:4.6 / 5.0
| 項目 | 評価 |
|---|---|
| 読みやすさ | ★★★★★ |
| 実用性 | ★★★★★ |
| 情報の新しさ | ★★★★☆ |
| 理論の深さ | ★★★★☆ |
| 初心者向け度 | ★★★★★ |


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