【管理会計 初級編 その4】ビジネスリーダーの意思決定に必要な情報の見つけ方

管理会計【初級】

1 決算書には、本当に知りたい経営情報は載っていない

ビジネスリーダーが下す意思決定には、数字に基づいた根拠が必要です。
しかし、決算書にはその大事な意思決定に参考になる数字が載っていません。

利益が全てという、ビジネスリーダーもいるでしょう。
しかし、利益という概念は、ビジネスの現場にはそもそも存在しません。
利益は単なる計算結果です。利益は将来のコストに使われたり、借金於返済で消えてしますのが現実です。だから利益は存在しないのです。

では、意思決定のための根拠はどこで見つければいいのでしょうか。

今回は、ビジネスリーダーが必要な情報は何処にあるか、皆さんと考えてみたいと思います。

2キャッシュフローこそ金

ビジネスリーダーが意思決定を下すための必要な根拠は、このような具体的な数字です。

  • 使ったコストが利益を生んでいるか
  • 無駄なコストは何処にあるか

損益計算書を見ても、使ったお金が利益を生んでいるかわかりません。
無駄なコストは何かということもわかりません。
どれだけ収入があって支出があったかはわかっても、支出と成果を結び付きがどうなっているかわからないのが、決算書の最大の問題点です。
決算書は、企業が価値を創っているかというもっとも大切な情報が載っていません。

企業の本質は、価値を創ることで利益を生むことにあります。
今の会計の最大の問題点は、価値創造のプロセスを表現できないことにあります。なぜ企業は新たな価値を創造しなければならないのでしょうか。
それは、新たな価値だけが新たなキャッシュフローを生み出すからです。

経営で大切なのは過去に稼いだ利益ではなく、将来生み出す価値、つまり将来のキャッシュフローです。そして、そのキャッシュフローを生むためには利益創造力が必要になります。

過去の収益ではなく、未来の利益創出力を生み出すためにずっと先のことを考えて経営できるのが、真のビジネスリーダーです。ビジネスリーダーが目指すべきは、将来のキャッシュフローの獲得です。そのためにお金は使われるべきです。

3 なぜコストをかけるのか

企業の将来は、お金の使い方で決まると言っても過言ではありません。
短期の利益のために、最も大切な長期の利益を稼ぐ金の卵までコストカットの対象として、将来のキャッシュフロー犠牲にしては、企業の存続はあり得ません。

業績が悪化したのは、過去に投資してきた多額な支出がキャッシュを生んでいないからです。そのコストが何かということを見つけ出して、無駄を止めるのがビジネスリーダーの意思決定です。

全ての活動が価値を生み出しているわけではありません。
決算書には、価値を生まない活動の存在も、それにどれだけコストをかけているかも何も書かれていません。
価値の生まない活動にもコストがかかっています。こうした無駄は決算書を見ても見つけることはできません。

経営になぜコストをかけるのか。それは価値を創造するためです。価値の創造に貢献しないコストは無駄なコストです。
ビジネスプロセスで発生するコストを分解・分析して、その一部だけを切り取って、これが無駄なコストだと判断してコストカットしても正しい原価は得られません。

大切なのは活動プロセスの一連で生じるすべてのコストです。ビジネスリーダーはビジネスプロセス一連の全てのコストを把握する必要があります。

ビジネスプロセスのコストとは、材料の取得前からのリサーチや計画から始まって、自社で材料に価値を付与し、現金に変換するまでの一連のコストのことです。
企画、調達、保管、生産、検査、出荷、最終消費者までのプロセス全てにかかるコストがプロセスコストです。
プロセスコストを正確に把握すれば、無駄なコストが分かって正しい利益も計算することができます。

ではどのようにこのプロセスコストを見つけることができるのでしょうか。

4 ABC 【Activity Based Costing】

プロセス全体のコスト計算には、ABCという手法を使います。
ABCはActivity Based Costingの略で、日本語では活動基準原価計算と呼ばれています。日本語だと何だか難しく感じますが、判断しずらい間接費をできるだけ適切に割り振って、正しい原価計算をするための方法です。

ABCが提供する情報は2つあります。
製品原価の対象の明確化と価値創造です。

原価の対象の明確化とは、商品の原料調達から始まって、生産されて客に届くまでの全てのプロセス全てにかかったコストを計算対象にするということです。
そもそもビジネスは、コストの10%が90%の売り上げに貢献しているという構造で成り立っています。
ということは、コストをかければ必ず収益が上がるといった因果関係は極めて低いということです。

決算書は無駄なコストが何かということを教えてくれません。
ビジネスプロセスを維持するための家賃、人件費、設備維持費等、売り上げとは関係のない固定費がある一方で、売り上げに貢献しない無駄な変動費もあります。こうしたコストの無駄を見つけるための分析方法が、ABCです。

損益計算書では、コストを集計するだけでプロセス全体のコストはわからないし、どれだけのコストが無駄になったかもわかりません。
コストをかけても、利益が増えないどころか、コストをかけすぎて利益が減ってしまうこともあります。

コストと利益に明確な因果関係はありません。
使っていない機械や材料、不良品の手直し、出荷までの待ち時間、廃棄コストなど、何もしなくてもかかるコストも、本来しっかりと計算しなくては、正しい利益を把握することはできません。
もしかすると、こうしたコストも含めると、利益が出ていると思っているビジネスでも赤字になってしまうこともあります。コストが発生しているところを管理するだけではすべての無駄は排除できないということです。
ABCは、何もしなくてもかかっているコスト、ビジネスプロセスのなかで把握していない隠れたコストをしっかりと計算します。
(ABCの具体的な計算方法は、次回以降のブログでまた解説します。ここでは、ビジネスプロセス全体のコスト計算の方法にABCがあるということだけ理解していれば大丈夫です。)

5 企業の本来の目的

企業の成功と継続は、将来の価値創造にかかっています。
企業は極端な利益追求に陥ると、何のための利益かという本来のビジネス目的を見失ってしまいます。

利益は、企業が生き続けるための糧であり、将来のリスクに備えるための保険です。
利益は、事業の有効性と健全性を測定する判断材料でもあります。
利益は、陳腐化、更新、リスクをカバーするためのもの、事業イノベーションと拡大に必要資金の調達資源でもあります。
ここに挙げた必要なコストは営業キャッシュフローの範囲内で全ておこなうべきであり、そうなると利益は存在しないことになり、事業存続のコストだけが存在することになります。

企業の使命は存続です。利益はそのために追求するのであって、決して企業の使命は利益の最大化ではありません。未来のリスクを賄うための利益、事業存続のための利益を上げることが企業の本来の目的です。
その本来の目的を達成するために、決算書の限界を知り、キャッシュフローを重視し、コストをかける意味を理解し、ABCを使ってビジネスプロセスコストを把握することが、ビジネスリーダーには求められます。