【管理会計 中・上級編 その6】株主への還元方法

管理会計【中級・上級】

1 自社株買いと配当はどちらがよいか

企業が株主に儲けを分配する株主還元には、「配当」と「自社株買い」という方法があります。
どちらが好まれるかは、個人投資家か機関投資家かによって変わります。

個人投資家は配当を望み、機関投資家は自社株買いを好みます。
個人投資家は将来の利益よりも今の利益を優先するので配当を好むのはわかりますが、なぜ機関投資家は配当ではなく、自社株買いを望むのでしょうか。
それは自社株買には、「株を売却するまで税金を払う必要はない」「企業によって儲けが再投資され、その結果として株の価値が上がる」といったメリットがあるからです。

ではもう少し、自社株買いと配当について、深堀してみましょう。

2 自社株買い

自社株買いとは、企業がその企業自身の株を買うということです。

配当の場合は、定期的にキャッシュを受け取りたい個人投資家は、配当を受け取るたびに一定金額の税金を支払わなければなりません。
しかし、自社株買いは、株式を保有し続けておけば株値が高くなっても税金を支払う必要がありません。

もし将来的に株を売却して、その売却益に掛かる税金を支払っても、将来的の金利やリスクを考慮すると支払額を割り引いて考えることもできます。

また、自社株買いによって配当を支払わない分の儲けを再投資することで将来、今以上の儲けにつながる可能性も出ます。

故に、長期投資をする投資家などは、自社株買いを望みます。

一般的に自社株買は、株価上昇につながる傾向にあります。それは、株価の定評、流通株数の減少、ROEの上昇、アナウンスメント効果などが理由として挙げられます。

企業自身が自社株買いを行なうのは、企業自身が想定している理論株価よりも実際の株価が低いからです。
株価が実態よりも軽視されていることを企業自らが自社株買によって主張するというアナウンスメント効果によって、多くの投資家に株を買ってもらうチャンスになります。多くの投資家が株を買うと株価が上昇します。

また、自社株買が行われると、流通株数が減少し1株当たりの株の価値が上がります。更にROE(当期純利益÷自己資本)も上昇します。

自社株買いを行なうと、自社株買いをした金額が自己資本から差し引かれます。自社株買いを現金預金で行なうと、預金の金利分が当期純利益から減少します。預金金利がほぼゼロの現状を考えると、当期純利益よりも自己資本の減少ほうが大きくなるため、結果としてROEが高くなります。

3 配当

成長期の企業は、先行投資で多額の資金が必要なため、無配当、あるいは少額の配当の経営選択をします。
また借入金が多く、資金に余裕がない財務状況を抱える企業も無配当もしくは少額の配当にします。
なぜなら配当より借入の返済を優先し、財務の安全性を確保しなければならないからです。

一方、業績悪化や赤字でも配当する企業もあります。それは大幅な減配や無配当は、将来業績が期待できない経営者の自社評価の現れであり、株価下落につながる可能性があるからです。
赤子や特別損失が一時的要因であったり、キャッシュフローに影響がない減損損失であったり、それ以外の事業が安定していれば、配当継続の選択肢もあります。

配当額を算出するにあたっては、いくつかの方法があります。
多くの企業は配当性向、総還元性向、DOE (Dividend On Equity Ratio)などを基準に配当額を決めています。

【配当性向】
配当性向は、株主にとっての儲けである当期純利益に対する配当の比率を基準にして、以下の公式を使って計算します。

    $$配当性向=\frac{配当金額}{当期純利益}$$

利益の何%を配当に回したかを測ることができます。
日本企業の平均的な配当性向の水準は30%~40%程度と言われており、欧米より10%程低いようです。
実際に京セラなどの企業は、配当性向を40%程度維持するという方針を設定しているところもあります。

【総還元性向】
総還元性向は、当期純利益に対する配当に自社株買を加えた株主への還元金額全額の比率です。

    $$総還元性向=\frac{(配当金額+自社株買い金額)}{当期純利益}$$

総還元性向は、配当に自社株買いが加わり、配当性向よりも高くなります。自社株買いは期間限定で行なわれるため、期間を区切って基準にする企業もあります。

【DOE】
DOE (Dividend On Equity Ratio)は、株主資本配当率または目己資本配当率のことです。
株主の投資額であるEquity (自己資本・資産)に対して支払われるDividend(配当)の率、つまり投資収益率を計算したものです。

    $$DOE=\frac{配当金額}{自己資本}$$

DOEは以下の公式でも計算できます。

    $$DOE=\frac{配当金額}{当期純利益}x\frac{当期純利益}{自己資本}$$

DOEは配当性向とROEを含めた総合的な指標として用いる企業も増えています。企業の平均的な配当性向30%~40%と10%程度のROEであれば、平均的な企業のDOEは3%~4%程度と言えます。

4 配当 VS 自社株買い

流通株数においては、配当は流通株数には影響は与えませんが、自社株買をすると、企業が購入した分だけ流通株数は減少します。

株価水準においては、配当は株価が高くても低くても株価とは別に実行可能ですが、自社株買は理論株価よりも実際の株価が低いときに行います。

株価への影響においては、配当は増配すれば株価の上昇、減配は株価の下落になる傾向にあります。自社株買いは株価上昇になります。

課税においては、配当には株主が受け取った配当金額に対して税金がかかります。自社株買いの場合は、売却しなければ株価が高くなっても税金を支払う必要はありません。

このように、配当と自社株買の違いを総合的に考えると、企業の財務的な安定性や成長ステージ、また配当性向をもとに適切な配当を継続的に実施し、もし配当後も余裕があれば自社株買いを実施する方法も選択肢の一つとして考えられます。

5 まとめ

企業が株主に儲けを分配する株主還元は、配当と自社株買いという方法があります。

個人投資家は配当を、機関投資家は自社株買いを、好みます。自社株買であれば、機関投資家は、株を売却するまで税金を払う必要はありませんし、企業によって儲けが再投資され、その結果として株の価値が上がるメリットがあります。

配当の基準には、主に配当性向、総還元性向、DOEがあります。

配当性向とは、配当の純利益に対する比率です。日本では30%~40%、欧米では40%~50%が大手企業の平均的な水準とされています。

総還元性向とは、配当と自社株買いの合計の純利益に対する比率です。自社株買いが含まれるので配当性向よりも高めになる傾向にあります。

DOEとは、自己資本などに対する配当の比率です。3%~4%が平均的な水準とされています。

配当は、企業の成長期や衰退期には、企業の財務状況の安全性が低いくなるため無配当・少額の配当となります。

増配は株価の上昇、減配は株価の下落の要因になります。配当の変更には経営者の将来業績の見通しの表れと言えます。

自社株買いは、株価が理論株価よりも低いという表明、1株当たりの利益やROEの上昇の可能性を示唆するため、株価の上昇する傾向にあります。増資は、その逆で株価の下落する傾向にあります。