【管理会計 中・上級編 その5】M&Aの方法
1 買収したい企業の評価方法
会社買収(M&A)する際に、以下の3つを使って買収するかどうかを決めます。
- BS(貸借対照表)
- マーケットバリュー
- DCF(Discounted Cash Flow)
【BS】
時価純資産法は、BS(貸借対照表)の資産を時価で評価し、資産額から負債を差し引いて評価します。企業全体を清算したらどの程度の価値が残るかで評価します。
【マーケットバリュー】
マーケットバリュー、例えばPER(株価利益倍率)やEBITDAを用いて、同業他社の株価の相場と比較して評価します。
比較する類似企業を決めるとき、株価や時価総額が高い企業だけで比べると、理論株価は高く計算され、株価や時価総額が低い企業ばかりで比べると理論株価は低くなりますので、どちらにも偏らない客観的な選択が必要になります。
【DCF】
DCF(Discounted Cash Flow)は、将来予測されるキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価します。買収したい企業の将来の業績予測をした後、その企業の現在価値を直接計算します。
2 最もよく使われるDCF法
DCF法は、BS評価のように精算を前提に評価することもなく、また同業他社の株価を間接的に評価しマーケットバリューを算出することもなく、買収したい企業の将来の業績予測できますので、M&Aの際には最もよく使われる手法です。
DCF法では企業の価値を事業と非事業用資産の2つに分けて評価することが大切です。
企業の事業価値は、今後10年程度の一定期間のフリーキャッシュフローを予測し、それを現在の価値に割り引いて評価したものと、予測後の価値である残存価値を合計して評価します。
残存価値とは、予測の最終年度時点で、事業を清算した時の価値、または事業を売却した時の価値です。
非事業用資産とは、遊休地のような事業には直接使用していない資産の価値のことです。事業以外の価値ある資産(資産を売却した時の売却金額)を評価に加えます。事業価値と非事業用資産の価値を合計が企業価値となります。
企業価値は、銀行などの債権者と株主が共有しています。企業が破たんした場合は、債権者のほうが株主よりも資産に対する優先権をもっていますので、株主価値は、企業価値から債権者が保有している価値を差し引いた額となります。債権者価値は、現時点で借りている借入金や社債の金額です。
【DCF法の注意点】
(1)DCF法で事業価値を計算するにあたっての前提であるフリーキャッシュフローの予測、WACCを用いた割引率、予測後の残存価値の計算には注意が必要です。
(2)フリーキャッシュフローを予測する時、売上高、原価、販売管理費予測、営業利益、設備投資額、運転資本の予測次第で大きく変わるため、予測が過去の実績や今後の市場と業界の動向から見て適切かどうかを見極める事が大切です。
(3)割引率の違いによってフリーキャッシュフローの現在価値が変化してしまうこともあります。
(4)予測する最終年度のフリーキャッシュフローの金額を大きくするように調整すると、残存価値がかなり大きくなってしまいます。最終年度以前のキャッシュフローと比較して最終年度と大きく差がないかを確認が必要です。
(5)継続した高めの成長率を期待したキャッシュフローに設定すると、過大評価になります。事業分野、市場、経済成長率から、無理のない成長率で計算するべきです。
(6)企業価値を向上させるためには、フリーキャッシュフローがより多くそしてより早く生み出させる事業を実行していくことが大切です。そのためには、営業利益をたくさん早く生み出事業があるかを見極めることが大切です。
(7)将来のフリーキャッシュフローを極端に割り引かないように、割引率のベースとなるWACCを低く抑えることも大切です。
(8)節税策、設備投資の効率化、売掛金回収の早期化、在庫圧縮等による運転資本の軽減などの組み合わせた総合的な企業価値を評価することが大切です。非事業用資産があれば、事業に使う予定のない資産売却の可能性があるかも評価しましょう。
3 デューデリジェンス
M&Aをする際に、買収したい企業に対して行う調査をデューデリジェンスと言います。上記で述べたDCF法に加え、法律、会計・税金、事業、人事、システム、環境の5つの視点から調査を行うことが大切です。
【法律の視点】
買収時に買収される企業側の社員の労務契約や労働組合との関連事項、これまで外部企業との取引、連携に係る契約内容の確認が必要になります。
【会計・税務の視点】
財務諸表、税金申告の正確性を確認します。買収金額を評価するうえで、最も大切ことは財務諸表か適切に作成されてきたかどうかです。財務諸表は、将来の業績予測や事業計画の作成、また買収後の会計処理において、とても重要になります。
M&A側は、買収したい企業を少しでも安く買うために企業価値の妥当性を正しく見極めなければなりません。
そのためには、貸借対照表の細かい確認、具体的には資産価値はもっと低いのではないか、負債が隠れていないか、純資産はもっと少ないのではないか、という視点から売上債権(売掛金など)、棚卸資産(商品製品、仕掛品、原材料など)、非公開企業への投資・出資、土地や設備などの有形固定資産、無形資産ののれん代などを、細かく精査することが求められます。
負債についても、年金や退職金の将来の支払いのための退職給付引当金、将来的に負債になる可能性がある保証債務などがないかなどの確認も必要です。
負債は、もっとある、他にもあるといった視点で、モレの有無を再確認することが大切です。さらなるセーフティーネットとして、買収される側の企業の役員たちに、買収後に発覚した情報を公開していない負債や問題に対する賠償責任等を明確に取り決めた契約書を作成しておくことも必要です。
【事業の視点】
事業の現状と今後の見通し、更には倍主語の人材活用、給与や福利厚生の処遇についても前もって対策が必要です。
【システムの視点】
現状システムとの統合が可能か、その場合のコスト等も把握しておく必要があります。
【環境の視点】
工場等の買収の際、工場の土壌汚染の有無などの確認・精査が必要になります。
これら5つのポイントをしっかりと精査して、M&Aによって業績が向上し、成果が今まで以上に出るかどうかの判断が最も大事になります。
4 まとめ
企業の買収(M&A)を決める時、BS、マーケットバリュー、DCFで判断します。
BSからは、資産の時価評価を行い、そこから負債を清算して評価します。
マーケットバリューでは、類似した企業のPERやEBITDA倍率を比較して評価します。
DCFでは、企業の将来のキャッシュフローを予測し、現在価値に直して評価します。企業価値を向上するフリーキャッシュフローの多さ、WACCの引き下げ、事業に関連しない資産の活用が可能かどうかをDCFで判断します。
デューデリジェンス(買収する企業調査)では、法律、会計・税金、事業、人事、システム、環境などに関する精査を実施します。
買収時には、妥当な買収額かどうか、保有資産が価値どれくらいか、隠れた負債はないか等を慎重に見極めると同時に、資産の精査では、売掛金、棚卸資産、非公開企業への投資、有形固定資産、のれん、非公開企業の場合の退職給付引当金、保証債務などを慎重に精査します。