【管理会計 中・上級編 その3】意思決定の方法 NPVとIRR

管理会計【中級・上級】

1 どのように意思決定すればいいの

会社の意思決定次第で、会社の未来が変わります。

新しい事業をすべきか、しないべききか
今の事業を継続すべきか、中断すべきか

会社の会議では、権限があって声の意見が大体通ります。その人に管理会計の知識があって数的根拠に基づいていればいいのですが、多くの場合は、経験値やその時の状況だけで判断しています。

間違った意思決定は、会社経営を傾かせる直接的な原因となりますから、意思決定の際にはそれなりの根拠が必要です。では、ビジネスリーダーは、どのような数的根拠を基に意志決定すればよいでしょうか。

今回は、意思決定のための3つの方法を紹介します。

  • NPV
  • IRR
  • 期間回収法

2 NPV (Net Present Value、正味現在価値法)

NPV(Net Present Value、正味現在価値法)は、「現在価値でいくら儲かるか」で意思決定する方法です。

NPVを用いた意思決定のポイントは、以下の通りです。

NPVがゼロ以上:実行

NPVがゼロ以下:実行しない

たとえば、割引率(WACC)が5%のときに、最初に250万円の投資を行ない、その後3年間100万円ずつの儲けを生み出すような投資事業のNPVは、次のように計算出来ます。
$$-250+\frac{100}{(1+0.05)}+\frac{100}{(1+0.05)^{2}}+\frac{100}{(1+0.05)^{3}}=22.32$$
この場合、NPVは22.32万円となり、この投資事業は現在価値で22万33200円の儲けがでるということになります。

投資プロジェクトの投資額と将来のフリーキャッシュフローを予測し、それらを現在価値に割り引いて合計した金額をもとに評価をしたのがこの計算です。

NPVがプラスなので、現在価値で儲けが出るので実行してもよいと意思決定できます。
NPVがマイナスであれば、現在価値で見ると儲からないので、実行しないと意思決定します。
2つの事業を比較する時は、NPV がより大きいものが良い事業となります。

NPVを求める時、WACCをベースした割引率を設定します。
WACCは資本コスト(企業が調達している資金のコスト)のことで、銀行や社債の保有者または株主といった資金提供者が、企業に対して期待する儲けを意味します。

NPVはWACC(資本コスト)を割引率として、将来のフリーキャッシュフローを現在価値に置き直します。つまり、資金提供者が期待する儲けを反映して割り引いた上でのフリーキャッシュフローの価値です。

3 IRR(Internal Rate of Return、内部収益率・内部利益率)

IRR(Internal Rate of Return、内部収益率・内部利益率)は、儲け率で意思決定する方法です。

IRRは、NPV=0の時の割引率です。
NPV=0とは、資金提供者が期待する儲けを確保して、将来の儲けを現在価値に直すと儲けはゼロになる(損はしない)という状態の時です。その時のIRRは、資金提供者が期待する儲けと同じ儲けを年平均で獲得できる儲け率と言えます。

例えば、1000万円投資した事業が3年後に1100万円得られる場合、IRRは10%です。
割引率を10%でNVPを計算してみましょう。
$$-1000万円+\frac{100万円}{(1+0.1)}+\frac{100万円}{(1+0.1)^{2}}+\frac{1100万円}{(1+0.1)^{3}}=0$$

最初に1000万円を投資し、1年目と2年目はそれぞれ100万円の儲け、3年目は100万円の儲けプラス投資額の1000万円が戻る場合、投資1000万円に対して3年連続して投資の10%となる100万円の儲けが出て、最終年度となる3年目には、最初の投資の1000万円が丸ごと回収できる時のIRRは10%となります。

IRRは、資金提供者の期待する儲け率(WACC)を上回れば、その投資事業は実行するべきと意思決定します。IRRを用いた意思決定のポイントは、以下の通りです。

IRRがWACC以上:実行

WACC以下:実行しない

4 フリーキャッシュフロー予測の注意点

NPVでもIRRでも最も重要なポイントは、投資事業のフリーキャッシュフロー予測がどれだけ正確かということにつきます。

過去の投資額、過去の儲け、過去の損失といった埋没原価(サンクコスト)は、将来の事業とは関係なく、また変化もしないので、フリーキャッシュフローの予測に含める必要はありません。現在進行中の投資事業を継続するかどうかの再検討の場合でも、これまでの投資額は埋没原価として考えるべきです。
なので、フリーキャッシュフローの変化に関係ない部分は、意思決定の対象とする必要はありません。

投資事業のフリーキャッシュフローの予測期間はどのくらいがよいでしょうか。
設備投資などのように期間が限定されている場合は、設備が機能的に使える期間、あるいは設備を実際に使う予定期間をベースに決定します。
新規事業のよに、うまくいったら継続する場合は、今の技術やブランド力を考慮に入れて7年~10年程度の期間のフリーキャッシュフローの予測し、それ以降は競争優位性が徐々になくなっていくことを前提に、GDP成長率で継続していくことを前提に評価するとよいでしょう。

5 予期せぬ動向のためのシミュレーション

フリーキャッシュフローを完璧に予測することはほぼできません。なぜなら、経済環境、競合企業の動き、原材料や部品の価格変動等の予期せぬ動向によって、予測した要因が大きく変化する可能性があるからです。

その変動を想定した予測がシナリオ分析とセンシティビティ分析です。
【シナリオ分析】
「楽観シナリオ」「中間 シナリオ」「悲観シナリオ」の3つのフリーキャッシュフローを予測し、それぞれをNPVやIRRによって実行するかどうかを評価する方法です。

この方法はCustomer(顧客と市場)、Competitor(競合企業)、Company (自社)の3C frameworkの前提条件をシナリオの中に落とし込む必要があります。
特に、最悪の結果となった時を想定し、どの程度の影響が出るかを確認する、最悪シナリオでのフリーキャッシュフローの予測も大切です。
最悪シナリオで企業が危機的状況に陥るのであれば、その投資案件は実行すべきではありません。

【センシティビティ分析】
市場の拡大や顧客の増加のペース、シェアの動向など不明確な数字だけを入れ替えてNVPを用いてシミュレーションします。シナリオ分析は、事業の楽観的、悲観的ストーリーでシミュレーションする一方、センシティビティ分析は、どうなるかわからない数字だけに限定して分析します。

6 回収期間法

NPVやIRR以外に、回収期間法(Payback法:ペイバック)という投資事業の評価方法があります。
投資した金額がどのくらいの期間で回収できるかで評価する方法です。

例えばA社は事業aに100万投資し、1年目が60万、2年目が40万の儲けあったとすると、2年の回収期間となります。A社の事業bは、同じく100万の投資額で、1年目は20万、2年目は30万、3年目で60万の儲けだとすると、3年目で回収できたことになります。
回収期間が短いほうが評価されるので、事業aの方がよい事業ということになります。

回収期間法は、将来の儲け(フリーキャッシュフロー)を割り引いていないことに加え、回収期間だけで評価して儲けの多さが評価されていません。

投資額の金利と損失などの不確実のリスクを考えると、将来予測されるフリーキャッシュフローは、割り引いて評価する必要があります。また儲け額の大きさで評価するためには、やはり儲けの大きさで評価するNPVと儲け率で評価する IRRを併用することがより良い評価方法といえるでしょう。

7 NPV、IRR、回収期間法、どれを使うべきか

一般的にはNPVが望ましいと言われています。

儲け率で評価する方法のIRRは、投資事業の規模とは関係ないので、IRRで評価すると、規模が小さく効率の良い事業だけが評価されてしまう事になります。

回収期間法は回収期間の長さで評価するためどれだけ儲けがあるかという評価が欠落しているのであまり望ましくありません。

以上を考えると、いくら儲かるかで評価するNPVでまず評価し、さらにその儲け率の効率さを評価するIRRを併用する事が望ましいと言えます。

8 まとめ

NPVは、現在価値でいくら儲かるかといった金額で評価する方法で、NPVがゼロ以上であれば実行してもよい事業、ゼロ以下であれば実行すべきでない事業となります。NPVはその値が大きければ大きいほどよい事業と評価できます。

IRR法は、年平均、何パーセント儲かるかといったパーセントで評価する方法で、IRRがWACC以上であれば、実行してもよい事業、WACCの値以下であれば、実行すべきでない事業と評価できます。

フリーキャッシュフローの予測期間は、投資の効果が及ぶ期間を想定します。ただ、新規事業などの場合は、投資時点の競争優位の効果がしばらくかかる新規事業は、7年~10年間を予測します。

フリーキャッシュフローの予測時には、シナリオ分析、センシティビティ・アナリシス(感応度分析)などを利用します。

投資額の回収期間を評価とする方法もあります。この方法は、将来の儲けの予測を割り引いていないため、儲けではなく回収期間の早さだけで事業を評価していいます。

NPV法、IRR法、回収期間法の中では、儲かるかどうか、儲けの規模はどれくらいかという視点で評価すると、NPVがよりよい方法となります。

IRRがWACC以上で実行してもよい事業を見極め、その優先順位づけの際に、回収期間の早さやNPVの金額の大きさを考慮するという方法を使う企業もあります。

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