【管理会計 中・上級編 その4】最適資本構成 借金は悪いことではありません。
1 事業の状況よって変わる最適資本構成
借金は悪いこと
無借金経営を目指す経営者が多いなか、実は借金は悪いことばかりではないというのが今回のお話です。
借金にもメリットはあります。
借入金や社債は、金利を支払うことで節税できる
資金提供者である株主や銀行は、自分の取り分を増やせる
メリットの一方で、借金は、返済できなければ破たんする危険性もあります。
大切なことは、借入金・社債を利用するメリットとデメリットのバランスを取るということです。
では、最適な資本構成にするには、どうすればいいでしょうか。
それは、最適資本構成は、企業の置かれた状況によって変わります。
例えば、このような企業は、借入金や社債を返済できずに破たんする危険性は極めて低いので、危険がない範囲での借入金・社債は問題になりません。
節税効果を得られるだけの十分な儲けがある
安定資産がある
業績が良く財政が安定している
逆に、以下の企業は、借入金や社債を返済できず、破たんする危険性が少なからずあるので借入金・社債は少ないほうが賢明です。
安定的な資産がない
業績が不安定で財政の変動が大きい
借入調達には順番があります。
- ① 企業は投資等に必要な資金をまず手持資金で準備する。
- ② それでも足りなければ借入金・社債で不足分を賄う。
- ➂ それでも更に必要なら増資する。
借入金・社債を最初にするのは、このようなメリットがあるからです。
増資は企業経営者と株主との間の利害相反が起きる
株の価値が下がる
株主からの資本コストが上がる
2 借金は悪いことばかりではない
無借金が良いとする企業は、借入金や社債をこのように考え、倒産の危険を回避したいと考えるからです。
もし借金を返済できなければ企業が破たんしてしまう
しかし、管理会計では、前述したように借金の金利を支払って節税効果を得られるのであれば、必ずしも借金は悪いとは考えません。
企業の儲けは、株主への配当、資金を貸している銀行などへの返済や金利、国や地方公共団体への税金の支払いに使われます。
企業に資金を提供する株主と銀行へのリターンを増やすためには、国や地方公共団体に支払う税金を減らすことが有効手段となります。金利を支払うことで儲けを減らして節税効果を得るのが、借入金・社債を増やすことのメリットです。
借入金によって経営破たんする危険性と金利を支払うことによる節税効果が均衡する資本の構成比率を最適資本構成と言います。
3 WACCと借入金・社債
WACCについて、簡単な復讐です。WACCはとても大切なコンセプトなので、出てくるたびにその意味を確認しましょう。
WACCとは、資本コストを具体的に計算する方法です。借りた資金のコストと株主からの資金のコストを、借りた資金と株主からの資金の大きさをもとに平均して計算します。来の儲けを現在価値に置き直すために使われる割引率でもあります。
銀行などから借りた資金コストは、金利から節税分を引くので低くなります。
株主からの資金コストは、株主はリスクをとって投資をしているため、借りた資金のコストより高くなります。
そのため、借りた資金が増えていくと、WACC は低下します。
ただ、借りた資金が増えると、財務的な危険性が高くなるため、借りた資金の金利が上昇し、株主の期待する儲けも財務的なリスクが上がり、その分より高くなります。
借りた資金のコストと株主からの資金コストの両方が高くなるため、WACCは、ある時点から、借りた資金が増えれば増え流ほど徐々に高くなります。
その結果、WACCは借りた資金が増えていくと最初は徐々に低下してくるが、あるところから徐々に高くなっていきます。WACCが最も低くなる点まで借りる資金を増やすことは可能です。
4 格付けと借入金・社債
借入金・社債の水準がわかならい企業は、債務弁済能力を示す格付けから判断してもよいでしょう。
返済能力を表す格付けは、返済能力評価の下限であるBBBが最低でも確保したいレベルです。目標とする格付けを維持する借入金・社債の増加レベルは、安全性の確保から借入金・社債の活用を考える方法です。
5 まとめ
借入金や社債を利用するメリットは、金利を支払うことで節税でき、資金提供者である株主や銀行などの取り分を増やせる点にあります。
デメリットは、将来的に返済できずに破たんする危険性が高くなるという点です。
最適資本構成は、借入金・社債を利用するメリットとデメリットのバランスを取れる資金を構成する比率のことを意味します。
WACCは、借入金・社債が増えればコストの低い資金の比率が高くなるので、最初は低下します。
しかしそれが一定以上になると、借入金・社債のコストと株主の資本のコストの両方が上がって行くため、高くなります。
格付けは、それを維持するために債務弁済能力を維持できる節囲内でいくらまで借入金・社債を増やせるかといった最適な資本構成の判断として使われます。
資本調達の順序は、①自前の資金、②借入金・社債、③増資、の順番が適切です。