【管理会計 中・上級編 その1】お金の本当の価値を知る計算方法

管理会計【中級・上級】

1 現在と未来ではお金の価値が変わる

今の1万円と10年後の1万円は、同じ1万円でしょうか。
実は、お金の価値は時間とともに変わっていきます。

なので企業は、この本当のお金の価値を考えながらお金を調達しなければなりません。そしてお金を調達するコストとお金を提供してくれた人たちが期待し要求する利益を上げていきます。お金の本当の価値と企業がお金を調達するコストはどのように計算することができるでしょうか。

そこで今回は本当のお金の価値と資金調達のコストの計算方法について考えてみたいと思います。

企業は資金提供者の立場で「資金をどう調達しどう使うか」を考えて、利益を出すことが求められます。
資金調達するとき、株主と債権者からの資金調達の望ましい構成比率(最適資本構成)と、株主や債権者といった資金提供者が企業に要求する儲け(資本コスト)をいくらにするかを考えます。

資金活用では、資金を活用することで生み出される儲けを資金提供者が受け取れるベースで考えたフリーキャッシュフロー、それをもとに投資案件などの評価を行なうためのツールであるNPV法、IRR法などが中心的な課題となります。さらに、投資家、中でも体主から見た企業価値、株主価値、また配当といった株主還元などの課題があります。

このように経営トップのビジネスリーダーには資金の調達と活用、企業価値、株主還元などを考えながらの長期的な経営舵取りが求められます。企業が長期的な視点から意思決定する時、将来のフリーキャッシュフローを現在価値に置き換えて評価しないと、正しい経営判断とはなりません。それは冒頭で述べたように、同じ金額で現在の価値と未来の価値では違うからです。

AとBのどちらに力を入れて販売するべきかという短期的な意思決定では、利益を割り引く必要もないので、利益の大きさで判断してもよいですが、長期的に利益をもたらすための意識決定では、NPVやIRRからフリーキャッシュフローの多さをベースにWACCを使って割引いてで判断します。

2 金利とリスク

今の1万円の儲けと、10年後に儲ける1万円は同じ儲けでしょうか。
この問いに答えるには、は金利とリスクを考えなければなりません。

何年後であろうと金額が同じであれば同じ価値と思う人もいるでしょう。しかし管理会計では、今の儲けは未来の儲けよりも価値がある、と考えます。
なぜかというと、そのヒントは金利とリスクの考え方にあります。
今の1万円をすぐに銀行に預金すれば金利が稼げることから、今の1万円の方が未来の1万円より価値があると言えます。

また今の1万円の方が未来の1万円よりも価値があるというのは、リスクの面からも言えます。管理会計でのリスクとは、不確実性、変動、ブレを意味します。一般的に言う「悪いことが起こる」という意味では使いません。確実に起こることを予測できていればそれはリスクではありません。

一方、来年の損失が1万円か10万円かわからないというのは、「不確実」な状況なのでリスクと言えます。このようにリスク面から考えると、今の1万円に比べて将来の1万円は、先の話であり様々な理由で1万円がないかもしれないというリスク(不確実性)を伴います。

以上のように、金利とリスク(不確実性)の視点から考えると、今のお金の方が未来のお金よりも価値があるということになります。

3 割引率と現在価値

管理会計では、通常将来のお金の価値をすべて現在価値に置き直して評価します。

  1. 割引率(Discount Rate):金利とリスクをもとに価値の違いを調整するために使われる比率
  2. 現在価値(Present Value):未来のお金を割引率を使って現在の価値に置き直したもの

N年後のx%の割引率の時の現在価値は、以下のように計算できます。

    n年後のお金÷(1+x%)n乗

たとえば、金利とリスクを考えて設定した割引率が10%の場合、1年後の100万円を現在価値で置き直すといくらになるでしょうか。

100万円 ÷(1+0.1)=90万9090円となります。
2年後の場合は、100万円÷(1+0.1)2乗=82万6446円となります。

以上の方法の他にWACCを使う方法もあります。この方法は後で説明します。

4 資本コスト (Cost of Capital)

資本コストとは、企業が調達している資金のコストのことです。また、企業に資金を貸している銀行や社債の保有者そして株主が企業に対して期待し要求している儲けのことでもあります。

資金を借りると金利の支払いが必要になります。金利を支払うとその分だけ儲けが減り、税金も安くなります。金利から金利を支払うことで節税できる金額を差し引いた額が借りた資金のコストとなります。

企業は株主にもコストを払わなければなりません。株主から預かった資金のコストは、株主が期待しているだけの儲け、つまり配当と株価を上昇させる当期純利益です。十分な当期純利益がなく株主が期待している配当が支払えなければ、株価は下落し、株主は株を売却することになります。株主引き続き株を保有してもらう為には、株主が期待している配当を支払えるだけの当期純利益を上げて、株価を維持していくことが必要になります。

上記の資本コストを具体的に計算する代表的な方法がWACC(Weighted Average Cost of Capital)です。借りた資金のコストと株主からの資金のコストを、借りた資金と株主からの資金の大きさをもとに平均して計算します。

【借りた資金の資本コスト】
借りた資金である金利を払うと儲けが減り、節税できるので、実際の資本コストは金利から接税分を差し引いた差額が借りた資金の資本コストです。

    金利 × (1 -税率)

例えば、金利が3%で税率が20%なら、以下のようになります。

3% × (1- 30%) =2・1%

【株主からの資金の資本コスト】
株主からの資金である資本コストとは、「株主が期待している当期純利益額」のことです。そのレベルを推定する代表的な方法がCAPM (Capital Asset Pricing Model)です。
CAPMは、株主からの資金の資本コストを計算します。

    Rf +β(Rm -Rf)

最初のRfはリスクフリーレートのことで、不確実ではない金利、確実に稼げる金利という意味です。確実に稼げる金利とは国債の金利のことであり、リスクはないと考えますが、株主は株価がいくらになるかわからないリスクを取っています。そのリスクを取る上で、株主はリスクがある以上、最低でも稼げる国債の金利の儲けを期待します。

Rmは、株式市場での長期間での年平均投資リターンです。

後のRfはRmの計算期間と同じ期間で計算した国債の実質金利の年平均のことです。

(Rm-Rf)はマーケットリスクプレミアムとのことです。株主が平均的にどのくらい国債の金利を上回る儲けを年ベースで期待しているかを意味します。一般的には、6%前後の水準を使うことが多いようです。
(Rm – RI) の数字は、イボットソン・アソシエイツなどが公表しています。

βは、企業のリスクの大きさの違いを反映する係数です。
β値は1であれば、その企業の株価のブレは株式市場全体の株価のブレと同じであるということになります。
もしβ値が1.3であれば、企業株価のブレは株式市場全体の株価のプレの1.3倍であり、株価のプレからみてリスクが高いと言えます。
B値が0.6であれば の場合は、企業株価のブレが市場全体の株価のブレの0.6倍でリスクが低いということになります。
B値は、ロイターやブルームバーグ、東京証券取引所などが公表しています。

企業のリスクを表わすB値をマーケットリスクプレミアム(Rm – R)に掛け合わせることで、株主が企業のリスクに追加して儲けたい率を調整し、自分が負うリスクを推定ですることができます。

β(Rm-Rf)は、リスクプレミアムのことで、株式投資によっていくら儲けがあるか不確実、つまりリスクのある投資をするうえで株主がそのリスクに見合うだけの追加の儲け(プレミアム)分を期待します。
例えば、国債の金利が3%、マーケットリスクプレミアム(Rm-RF)が5%、B値が0.6の場合、3%+0.6x5%=6%となります。

【WACC】
WACCは、借りた資本コストと株主からの資金の資本コストを加重平均して計算します。例えば以下の様な企業のWACCを計算してみましょう。

借りた資金のコスト 2.1%で1億円
株主からの資金のコスト 6%で2億円

1/(1+2)x2.1%+2/(1+2)x6%=4.6%

これは、企業の資金提供者は、投資額に対して毎年4.6%以上の儲けを平均的に得られることを期待するという意味です。
実際には、企業のWACCは4%〜10%が多いようです。

WACCの水準の高さは、国債の金利、リスク、借入金の3つによって決まります。
国債の金利が高ければ企業が借りる資金の金利も高くなることに加え、リスクフリーレートも高くなります。
事業業績のブレが大きく事業のリスクが高い企業、借りた資金が多く財務的にリスクが高い企業は、β値が高くなり、株主の期待する儲け、リスクプレミアムが高くなります。
また、借りた資金が多いと、財務的リスクが高くなるため、借りた資金の金利も高くなります。

借りた資金の資本コストは金利からその節税分を差し引いた差額です。一方、株主からの資金の資本コストは、株主が期待している儲けのレベルです。

ただ、株主の儲けは、配当や株価の上昇分といった業績次第で変動するリスクがあり、また株主が投資している企業が破たんするリスクもあることから、株主が期待する儲けは、そのリスクの高さに見合う分だけ高くなります。
結果として、株主からの資金のコストのほうが、借りた資金のコストよりもかなり高くなります。
株主からの資金よりも借りた資金の比重が大きくなるほどWACCは低くなり、逆にその比重が小さくなるほどWACCは高くなることになります。
また金利が低く、リスクが低く、借りた資金の比重が大きいとWACCは低くなり、金利が高く、リスクが高く、借りた資金の比重が小さい場合には、WACCは高くなります。

【割引率】
将来の儲けを現在価値に置き直すために使われる割引率はWACCを使います。
その理由は、WACCの値は資本コストであり、資本コストとは、企業に資金を提供している銀行、社債の保有者、株主などが期待する1年間の儲けを指すからです。
資金提供者(投資家)の目線で企業評価を行なうために割引率としてWACCを使います。

一定期間継続していく事業の評価を行なう場合、WACCとその事業が年平均で何%儲けを出すかを意味するIRRと比較して、IRRの方が上回っていればその事業は資金提供者が期待する儲けのレベルを上回っていることになり、事業の実行は正当化されます。

もしIRRがWACCを下回っていれば、資金提供者が期待する儲けのレベルを下回る儲けなので、事業は実行しない方がよいことになります。また、WACCは投資事業が現在価値でいくら儲かるかを意味するNPVを計算する割引率としても使われます。

毎年の業績評価では、資金提供者から預かった資金である有利子負債と純資産の合計に対する事業からの儲けであるNOPAT(Net Operating Profit After Taxes:税引後営業利益)の比率を計算するROIC(Return On Invested Capital:投下資本利益率)と比較したときに、ROICがWACC以上であれば、事業の投資効率が資金提供者しているレベルを上回っていることを意味しているので、資金提供者の期待を満していることになります。

また、WACCの構成要素である株主資本コスト、CAPMよりもROEが上回ることが求められます。なぜなら、株主資本コストは株主が期待している儲けの率で、株主の投資効率の基準であるROEはそれを上回ることRF + β(Rm – Rf)≦ROEが必要だからです。

まとめ

未来のお金を現在の価値に置き換える時に必要なコンセプトが、この4つです。

  • 割引率
  • 現在価値
  • 資本コスト
  • WACC

お金の価値が時間とともに変わっていくその差を調整するために使われる率を割引率と言います。

未来のお金を現在の価値に置き換えたものが現在価値と言います。(この計算をしないと、本当のお金の価値はわかりません。)

企業が調達する資本にかかる費用を資本コストと言います。

資本コストを具体的に計算する代表的な方法がWACC(Weighted Average Cost of Capital)です。(借りた資金のコストと株主からの資金のコストを、借りた資金と株主からの資金の大きさをもとに平均して計算します。将来の儲けを現在価値に置き直すために使われる割引率は、WACCを使います。)